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Magic flare(マジック・フレア)
第2話 泣ク看守
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に育った人である。守護天使育成サービスの月々の契約金はそれなりに高い。
 自分で稼ぎを得るようになってから契約したら、それはそれで面倒が待っている。守護天使を新しく持ったら、幸福指数は星一個から十個のカウントより前の、星のないキッズランクから始まる。
 今まで何となく除外されていた階級闘争に、いい大人になってから、最下層の子供扱いから参加しなければならないのだ。それに対する心理的な抵抗が、義務教育を終えてからのサービス新規加入を踏みとどまらせる主な理由だ。
 無論ACJも企業だから新規顧客を増やしたい。新規加入者への救済措置として、就労可能年齢から加入した場合、金さえ出せば星一個のCランクから守護天使を持てる。しかし大多数の利用者にとって、守護天使育成は人生だ。人生をかけて幸福指数を上げ、幸福指数によって人生の選択肢を増やす。金で幸福指数を買った人間は、市民たちにやすやすと受け入れられはしない。
 四時間のフライトが始まった。飛行機は磁気の嵐に耐えて、薄雲に月の見え隠れする空を目指す。Sランク市民の婦人がたは、声を落としてまだ話している――まあ――いいわね――あなたこそ――素晴らしいわ――クグチは椅子に深く身を預け、目を閉じた。
 飛行機はどんどん高くなり、地を振り切ろうと試す。この飛行機は本物の空を故郷と信じている。帰りたい。帰りたい。飛行機は炎を纏って墜ち、花びらに埋もれて死ぬ。月は涙を湛えて満ち、涙を流し欠ける。そんなことには頓着せず、婦人方は滅亡への時を無為に過ごす――立派だわ――楽しみ――本当よ――素敵――お宅の天使。天使天使。
「持てよォ、世界が変わるぞォ」
 前の席の乗客が立ち上がり、座席越しにクグチを振り返る。中学校の同級生の男だ。
「俺は駄目なんだ」
 中学生のクグチは教室の席で委縮して答える。
「何で?」
「父さんが駄目っていうから……」
「持ちたいって言わなきゃ。本気だってわかればお父さんも考えてくれるよ」
 いつの間にか隣に少女がいて言う。
「駄目なんだ」
「どうして?」
「これまでも何回も言ったよ。でも」
「きっと本気だと思わなかったんだよ。もう一度頼んでみなよ」
「無理だよ」
「どうして? なんでやる前から諦めてるの? やってみなきゃわかんないよ! そんなふうだから持たせてもらえないんじゃないの」
 女教師が機内限定販売の土産物やコーヒーを載せたカートを押して教室に入ってくる。
「みなさん、守護天使が表すステータスはみなさんの名札です。名札がないまま社会に出たら大変な思いをしますよ。そんなことより間もなく最後の大きな太陽フレアが来ます。その後さよなら。お別れです。みんな死にます。さようなら……」
 クグチは恐怖を吸う。ここに酸素はない。ここでは長く生きられない。逃げても、逃げても聞こえて
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