暁 〜小説投稿サイト〜
Magic flare(マジック・フレア)
第2話 泣ク看守
[2/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
いえ、今のところ、一民間企業に過ぎない。本来なら他人の家に踏みこんで強制的に所持物を破壊する権利はないんだ。警備員たちの安全の問題もある。僕たちのやっていることは、銃の製造会社の人間が銃を持った強盗を取り締まっているようなもんだ」
 強羅木は不機嫌になって椅子の背にもたれかかった。向坂は続けた。
「サービス強制停止の際に暴れたり自暴自棄になる利用者は珍しくない。ただでさえ精神を病んで辞めていく特殊警備員は多いのに、もし危害を加えられることがあっても、今の体制ではACJには何もできない。僕たちは部下も自分も守れないんだ」
「はるばる道東から来て言うことがそれか。その程度のことを俺が考えていないとでも?」
「クグチ君を道東支社に送ってほしい」
 向坂の意味のない微笑に、媚びるような色が滲んだ。
「なんで」
「ACJは特殊警備の職務にあう適性というものを探っている。それについては強羅木君も承知してるだろう。一部の特殊警備員も知っている。ところでこれは今のところ公表されていないけど、道東支社では守護天使を持たない人材を集めている。健康で、体力があり、守護天使がない人間が必要だ。それで新しい特殊警備チームを試験運用する」
「向坂。俺は頭も察しもよくないが、本社の連中が考えてることはわかるぞ。道東支社でやろうとしてることもだ。幽霊狩りはACJの手をはなれる。大いに結構。今後、その仕事を請け負うのは別に誰でもよくなるわけだ。守護天使がない人間でもな。そうなればACJは従業員が職務中に負った心的外傷に対しいかなる責務も負わない。今もそうだが。そうしたことに対する負い目は一切なくなるわけだ」
「強羅木君?」
「幽霊狩りは必要だ。だが利用者たちにとって特殊警備員は恐怖だ。悪だ」
 向坂が取りなすように口を開くのを、強羅木は言葉をかぶせて遮った。
「悪役は完璧じゃなければならない。そういうことだろう。善良な市民たちの大切な守護天使を破壊する役が、同じ守護天使を持った善良な市民では様にならない。誰にとっても幸せじゃない。だから守護天使を持たない、居住区の厄介者が必要になった。違うか」
「決めつけるのは早計だよ」
「適性か。全くふざけた言い分だな。上層の連中はACJのシステムに組みこまれない層が居住区内にあるのが気に食わんだけだ。従業員。利用者。そしてそれ以外。それ以外の連中というのが守護天使を持たない連中だ。ACJはありがたくもその連中に職を下さるというわけだな、幽霊狩りの仕事を」
「強羅木君――」
「ふざけるなっ!」
 強羅木は厚い掌でテーブルを打った。パスタ皿からフォークが浮き、また皿に落ちて、大きな音をたてた。強羅木は息を吸い、止めた。そして吐いた。
 ACJのやり方を糾弾する権利は自分にはない。上司として、既にクグチに指示を出してしまって
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ