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Magic flare(マジック・フレア)
第1話 本当ハ静カナ町
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。だからせめて人並み以上に真面目にやれと言うんだろう」
「逆だ」
 クグチは初めて相手をまともに見た。強羅木は最初から、視線をじっとクグチに定めていた。次に口を開いた時には、口調が自然と育て親に対するものから、上司に対するものに変わっていた。同時に背筋も伸びた。
「どういうことですか」
「もう一度聞く」
 クリアファイルが机上に置かれた。報告書が挟まれている。クグチが書いた報告書だ。
「十五時〇四分、対象利用者の自宅に到着、自宅内にて対象利用者と接触」
 ささくれ立った太い指がその内の一行をなぞる。
「対象者はお前を見てどう反応した」
「怯えていました。当然です」
「何故怯えていたと思う」
「もちろん、せっかく育てた守護天使を抹消されるわけですから」
「せっかく育てた守護天使を、か。お前はそれをどう思う」
 不愉快な感触が胸をなでる。クグチは眉をひそめた。
「どうとは――」
「守護天使を持ったことのないお前が、何を以って『せっかく育てた守護天使』などと言っている? どういうつもりでそれを消している?」
「質問の意味が分かりません。ACJの特殊警備員は……」
「何も咎めてはいない。それが職務だ。むしろ対象の守護天使をしっかり消してくれなければ困る。ただ適性を知りたい。守護天使を持つ人間とそうでない人間、職務への適性の判定が今求められている」
「初めて聞く話です。それでどうしろと」
「何を思ったのか書け」
 クリアファイルを机の上で滑らせて、強羅木はクグチに報告書を返した。
「報告書に個人的な心情を書けということですか?」
「そうだ。俺がやめろと言うまでだ。他の警備員数名にも試験的に同様の指示を出している」
「書けません。出動中は無感情です。対象は泣いたり、怒ったり、殴りかかってきたりする。冷淡に事務的にやらなければ対象に引きずられます。それでは精神的にもたない」
「事務的に仕事をこなすことと、無感情になることは全くの別だ。出動は嫌か」
「好きという人はいないでしょう」
「それは、出動が嫌なものだからだ。嫌と感じる以上感情は働いている。今回の出動で、お前は何が一番印象に残っている?」
 路地の少女の面差しが思い起こされ、クグチの表情を動揺させた。
「……何も特別なことはなかった」
「特別なことを書く必要はない。先ほどの指示通りに書き直して提出しろ」
 強羅木は、部下たちの誰にも存在を気付かれぬまま席を立つ。退室しようとするその背に、クグチもまた立ち上がり、呼び止めた。
「何だ」
「あんたが俺に守護天使を持たせなかったのは、将来何か特別なことをさせるつもりだったからか」
「俺の教育方針だ。十五年も前に決めたことだぞ。そんな先見の明はない」
 強羅木が呆れたように言い残して部屋を出て行ってしまうと、
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