第1話 本当ハ静カナ町
[5/10]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
。
「守護天使を見なかったか」
唾を飲んでから、気を取り直して尋ねた。
「男の子の姿をしている。十歳くらいで……」
「あなた、守護天使がないのね」
少女は幻の羽根より柔らかい、しかし冷淡な、嘲笑うような響きの声でクグチを遮った。
「ACJの人なのに。どうして?」
イヤホンの中で警笛が鳴り響く。早川が、応答しないクグチを罵っている。慌てて眼鏡をかけた。赤い矢印が動いてくる。数字が猛スピードで縮まってくる。
ありもしない青空の下で、クグチも走った。
八百メートル。七百メートル。六百。五百。
三百。百。五十。二十。
銃を構える。
曲がり角から現れた少年の表情が絶望を示すまでの間もなく、引き金を引いた。
少年は泡のようにぱちんと消えた。
―2―
ひと仕事終えた特殊警備員たちは、ACJ南紀支社の彼らの詰所に戻っていた。広い部屋の片隅で、六人の仲間たちが円卓を囲み、それぞれの操作端末を手に通信ゲームに夢中だ。出動中と打って変わって、病的なほど明るい。彼らの座る間隔がやたらと空いているのも、その会話がちぐはぐなのも、間に彼らの守護天使がいるからだ。眼鏡をかけさえすれば、クグチにもその姿が見える。
「そしたら高田がまたよぅ、B班の高田だよ、あいつ女房に追い出されたとかでさあ」
「風呂と言えば俺の家の風呂釜が」
「ほんと、くだんねえことに大金使うよな」
「あいつ仕事できねえくせにそんな給料いいのかよ」
「あ、卑怯だぞ」
クグチは部屋の反対の隅の、自分のデスクに両腕を置き、その腕に顎を乗せるという姿勢でだらしなく背中を丸め、同僚たちの声を聞くともなしに聞いていた。背後で静かにドアが開き、閉じた。
入ってきたのは百八十二名の特殊警備員を束ねる特殊警備センター室室長の強羅木という男だった。仲間たちは彼らだけが共有するゲームの音楽や守護天使たちの声に夢中で、上司の入室に気付かない。
強羅木はクグチの横に立った。クグチは一瞥をくれたが、何も言わなかった。
「報告書は書けたか」
クグチは顎を上げ、その顎を、壁際のレポートボックスに向けた。強羅木は呆れた様子で溜め息をつく。育て親であるこの男とは、六歳で引き取られてからもう十五年もの付き合いになる。
「あんな紙切れ一枚で済ますつもりか。少しは真面目に働け」
「特筆すべき事柄はありません」
「だからと言って毎回毎回、書き方見本みたいな文面ばかりあげてくるな。目を通すのは俺だけじゃないんだぞ。明日宮」話しかけながら、隣の椅子を引いて座る。「……クグチ。今さら俺が言うことじゃないが、お前は他の警備員たちとは違う。お前はお前が思う以上に人から見られている」
「守護天使がないからか」
「そうだ」
「そうだろうな。クビにする口実が欲しいんだろ
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ