第1話 本当ハ静カナ町
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が考えられますが」
老人の足が震えだすのが、クグチの目にも見えた。
「……多いんですよ。守護天使をそうやって外界に、特に墓参りなんかに連れて行く人は」早川はうんざりとため息をついた。「こういうことになるから、やめとけって言ってるのに。わかんないんですよ。あんたみたいなお客さんは」
子供の姿がぽんと、ソファから弾けて消えた。
「F-57202、アウト。アウトだ! F-57202」
「あなたの守護天使はACJ社のサーバに戻れません。あれは健全なその他の製品と区別しなければならない」
「ミツルは製品ではない! 黙らんか!」
「不良品です。残念ながら」
イヤホンから子供の叫び声が聞こえた。家の垣根の向こうへと、標的の位置を示す赤い矢印が伸びる。メートル単位で標的との距離を示す数字が大きくなり、小さくなり、また大きくなる。
「ミツル!」
老人が腹の底から声を張り上げた。
「お父さん! 助けて!」
クグチは庭に降り、枝折り戸を開け放つ。
「出れないよ! お父さん!」
同僚たちが老夫婦を押さえつける、その乱闘じみた気配と音。
「助けて!」
表示される数字が小さくなる方へ走った。後ろから早川が追ってくる。
あんな言い方をする必要があったのですか。以前そう訊いたことがある。その時……その時は何と答えられただろう?
『みなさん! 我々は傲慢な侵略者に対してこれ以上我慢すべきではありません。今こそ立ち上がる時です。我が国の領土と歴史と先進技術は我ら国民ひとりひとりの手によって守らなければなりません! みなさん――』
スカイパネルが戦争を喚いている。クグチはレンズに投射される数字にばかり気を取られ、入り組んだ路地に迷いこんでいた。迷ったことを自覚し、じわりと脇の下に汗をかく。
焦る必要はない。対象はこの区画を囲む電磁防壁に捕らえられている。
三角形の家に行き当たった。家の辺に沿って、道が分かれている。右か。左か。
右に行った。
いきなり少女がいた。
降り注ぐ電磁体の羽根が少女の姿を洗っている。
家々を覆う幻覚の色彩が風もないのにたなびく。
その中で、ただ一つの不動のものとして少女は立っていた。
白いブラウス。白いスカート。白い靴下。全ての闇を吸いこんだような黒髪。黒い瞳はまっすぐぶつかったクグチの視線から逃れようとしなかった。視線も、その髪一本さえ、こ揺るぎもしない。
はじめに動いたのは、幻でもないのに鮮やかな赤い唇だった。
笑った。
彼女には、目の中で揺れ動く紋様も、イヤホンもない。
クグチは眼鏡を外した。本来ならば少女の姿に重ねて表示されるはずの幸福指数が見当たらなかったからだ。しかし、少女はいた。歳は十六、七くらいだろうが、そうとは思えぬほど落ち着き、堂堂としている
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