第1話 本当ハ静カナ町
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イパネルが十五時を示す。時報だ。
やればやるほどわかってくる。この町の本当の人口が。
通り過ぎる広場で、歩道で、人々が談笑している。恋人のように。家族のように。
眼鏡を外した。目に見える人の数が半分に減った。オーロラも、美しい星空も消えた。
都市の外では雨が天蓋板を叩いている。
若い女が公園のベンチで、誰もいない空間に大げさな身振り手振りで話しかけている。小さな男の子がネットに入れたサッカーボールを蹴りつつ、嬉しそうに一人で喋りながら歩いている。カフェテラスではす向かいに座る男女。けれど二人とも、連れ合いの顔を見てはいない。
クグチには、この町の未来の人口さえ見える。
十年後。まだこの町の大半の人間が生きている。
三十年後。あの老人は生きていないだろう。黄疸が出ているあの中年男も怪しいものだ。
四十年後。五十年後。自分は生きているだろうか。
六十年後。まだ生きている自分を想像できない。
眼鏡を外しても見える人間は、死んで骨になる。あのベンチに、あの歩道に、あのカフェのテーブルに、無言の骨が残る。眼鏡やレンズ越しにしか見えない連中――可視電磁体たちは、いかに人間らしく見えようとも骨を残すことなどあり得ない。ましてや子供など。連中は持ち主が死ねば、何も残さず消滅する。拒んだところでクグチたちに狩られるまでだ。
現場に着き、車にブレーキがかかった。ベルトを外し、床の高い警備車両から全員が飛び降りる。同僚が目の前でロゴ入りのジャンパーを羽織った。同じものをクグチも着ている。
〈A.C.J.〉――オーロラ・サイバネティクス・ジャパン。
現場は郊外のありふれた一軒家だった。門扉を開けた班長の早川が、すりガラスの引き戸に飛びつく。
「大里さん! 大里さん!」
先輩にあたる立場の同僚から目で合図され、クグチは母屋を周りこむ形で走り出した。
「大里さん! ACJ社の者です。少しお伺いしたいことがあります。大里さん! 大里さん!」
同僚の男は共に走りだしながら、クグチを思い切り睨みつけた。
「眼鏡をつけろ! 仕事中だぞ!」
やればやるほどわかってくる。こうした時、〈守護天使〉とその持ち主がどこにいるか。
家の裏側、開け放たれた広縁に、老人が一人でいた。青ざめてソファから立つ。クグチは諦めた心地になって眼鏡を装着する。
老人の姿に重なって、彼の職業、簡易プロフィール、現在の幸福指数が見えるようになった。
星10個中3.5個 幸福指数C。
そしてもう一台のソファに、十歳程度の男の子がぽつんと座っている。
ACJ社のレンズを装着している者には初めから、クグチには眼鏡をかけて初めて、その少年が見えた。
人間の社会的価値は幸福指数が決める。幸福指数を示すのは可視電磁体〈守護天使〉だ。
「
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