第五章
[8]前話 [2]次話
第五章
「まだ」
「早いのでは」
「早くはない」
「今がその時だ」
社長と部長はそんな二人に対して突き放した様に告げてきた。
「それでは後は」
「若い者同士でな」
こう言ってそのまま去る。こうして和樹とひとみは二人だけにされた。まずは何といっていいのか全くわからなかった。お互いにである。
暫く辛い沈黙が続いた。だが遂に和樹が口を開いてきたのであった。
「あの」
「はい」
ひとみもそれに応える。これがはじまりであった。
「ずっとですね」
「ずっとですか」
「こう言っては何ですが」
言葉を慎重に選んでいる。二人共正座している。
「私はずっと」
「私もです」
ひとみはすぐに彼にこう返した。
「私も前からずっと」
「そうでしたか」
「そして気付いていました」
ひとみはこうも述べた。
「貴方のことを」
「私もです」
和樹も正直に述べた。実際にそうだったのだ。
「貴女のことを」
「そうだったのですか」
「そうです。ですが中々言えなくて」
「私もです。確かだと感じるまで」
「ですが。確かだったのですね」
「そうですね。確かでした」
お互いに言い合うのであった。
「本当に」
「全くです。しかし私は素直になれなかった」
「私もまた」
「勇気がありませんでした」
和樹はうっすらと苦笑いを浮かべて述べた。
「どうしても」
「そうですね。けれど」
「はい」
和樹のその言葉に応えるひとみだった。
「今は」
「違います」
そして和樹はその顔をひとみに向けて。静かに言うのであった。
「間宮さん」
「はい、斉藤さん」
「私と付き合って下さい」
はっきりと彼女に告げた。
「御願いします」
「私も」
ひとみの方からも言うのだった。
「御願いします」
「宜しいのですね、私で」
「私でいいのですね」
二人共全く同じことを言い合う形になった。そしてであった。
「それでは」
「一緒に」
「これからも」
ひとみは自分の左手をそっと出した。和樹はその手を受ける。そうしてだった。和樹も手を出してであった。そのまま。
二人の手が合さった。静かに重なり合う。
「私達はこれから」
「ずっと一緒ですね」
「はい、一緒です」
「永遠に」
二人で重なり合ったものを感じながらだ。部屋の中にいた。これがはじまりだった。
そして半年後二人は結婚した。その式において社員達はそれぞれ言うのだった。
「こうなるべきだったけれど」
「そうよね」
「それでもね」
皆教会の中でにこにことしている。壮厳な趣きの教会の中でだ。ステンドガラスから溢れ出る。黄色や青、緑の光、そして十字架の主を前に話すのだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ