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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第33話 決められた天秤
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情報機関は深く警戒するだろう。しばらくは監視の目がつく。そしてグレゴリー叔父の競争相手にとって見れば、小さいながらもスキャンダルの種になる。花を咲かせるかは分からないが、可能性は充分すぎるほどに。

 そして連れて帰った俺はどうなるか。士官学校首席卒業。二年で大尉。速い出世であることは否定しない。だが原作通りなら帝国領への侵攻まではあと九年。それまでに戦略を左右できる地位にまで昇進できるか……まず無理だろう。そうなると同盟を救うには金髪の孺子を早々に殺すしか選択肢がない。

 いいや、すぐに連れて帰る必要はない。勿論『愛は不滅だ』とは言わない。置き去りにされたとドミニクが考え、心変わりする事もあるだろう。前世でも遠距離恋愛の成立が困難な事は承知の上だ。だが俺が昇進し、帝国領侵攻を阻止できれば……いつでもドミニクを同盟領に呼べる。俺が希望を僅かなりとも取り戻したタイミングだった。

「そうだ、これも君には言っておかなければならないな。昨夜のことだが、ボルテック対外交渉官がアグバヤニ大佐と会ったそうだ。君のことも話題に上ったそうだぞ」

 そう言いながら、何の話題かまでは言及しない。ボルテックに問えば、それは同盟弁務官事務所駐在武官の間で情報の齟齬が生じていることを公にするようなものだ。逆にアグバヤニ大佐に問えば、既に俺とドミニクの関係を知っているであろう大佐は俺に疑念を持ち、何らかの行動をとることだろう。泰然自若として無視する。それしかないが……やはり大佐は黙っていないだろう。

「守るものが多いというのも大変だな」

 それはルビンスキーの勝利宣言だった。俺が自らの身の程知らずと無謀さと愚かさを痛感し、背を丸めて両拳をカウンターテーブルに押しつけるのを見て、ルビンスキーは再び鼻で小さく笑うと席を立って店を出て行こうとする。
「ルビンスキー」
 俺は自分の腹の中から勝手にわき出る感情に身を任せた。
「今の俺には才能も実力も覇気もないが、時期を待つという事は知っている。あんたはいつか自分の身の丈以上の欲望に溺れるだろう。気をつけるんだな」

「……なるほど。心しておこう」
 胡桃材の扉の前で足を止めて首だけ振り返ると、ルビンスキーはそれだけ言い放ってこんどこそ出て行った。

 扉がゆっくりと閉まり、鈴の音が収まってから、ドミニクは俺の処に駆け寄ってきた。背中越しでも泣いているのははっきり分かる。ルビンスキーの言葉の全てを聞いていたのだろう。言葉に出さなくても、彼女には次にどういう事態が待っているかは理解できている。今あるのは手持ちぶさたというより、ルビンスキーの脅迫を真っ向から受ける形になったドミニクの叔父の、逃げともいうべき食器を洗う音だけだった。

……それからの状況変化は、こちらが呆れるほどに素早いものだった。

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