第10話〜とある美術部員の一日〜
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七耀暦1204年 5月23日(日) −トールズ士官学院−
入学して二か月弱が経過した五月下旬。トリスタの街の、満開だったライノの風情ある花景色は、若葉を連想させる新緑の木々に一変した。そんな季節の移ろいをにわかに感じる中、特別実習を終えた特科クラス、Z組の面々は、多忙な日々を送っている。武術の基礎訓練に加えて高等教育の学習カリキュラムも本格化し始めた状況だ。ようやく巡ってきたと言える学院生活二度目の自由行動日において、美術部であるアレス・ヴァンダールは、士官学院本校舎2階にある部室にて一枚の絵を描いていた。当部の新入生は、アレスを除いて二人。長身褐色の留学生にしてアレスと同じクラスメイトのガイウスに、W組に所属しているピュアピンクの髪をした少女、リンデだ。そして、部の筆頭たるクララ部長は、周囲には一切目もくれずに彫刻作品を作るべく、石を削り続けている。最初に入部希望書を提出した時も此度のような感じで、「そこの机においておけ」とのたまうだけだった。
3人の新入生が無言で絵を描く静かな空間に、彼女が石を削る音が響く。入部当時こそ多少は戸惑いはしたが、今ではその音が心地よくさえ聞こえるため、我ながら不思議である。
「・・・これは見事だな」
「貴公の方こそ。我流でこれ程の実力とは、恐れ入る」
「アレスさんもガイウスさんも、すごく上手ですね!」
右隣で絵筆を走らせるガイウスから、アレスの絵に対する賞賛が入り、それに答えるように彼の絵も称える。彼の故郷であるらしいノルドの風景画は、素晴らしいの一言だった。力強いタッチと繊細な色分けが織りなす、広大な高原。今にも風が吹きそうな迫力がある。
アレスの絵は、帝都ヘイムダルにあるバルフレイム宮。かの獅子心皇帝の像がある、ドライケルス広場からの視点で描かれたものだ。背景のバルフレイム宮とは色彩のメリハリがくっきりしているため、像がよりいっそう際立っている。メインである像はリアリティに富んでおり、動き出しそうな勢いだ。
「リンデも、良い絵を描くものだな。これは・・・園芸部の庭園か?」
「はい、そうです。でも、良い絵だなんてそんなことは・・・」
「謙遜することはない。何とも微笑ましい絵だ」
「ふふ、ありがとうございます」
ガイウスとアレスの絵を上手だと言うが、彼女の絵も大したものだとアレスは思った。
彼女のものは、本校舎の中庭の奥にある庭園をメインにした風景画だ。
園芸部部長のエーデルと、Z組のクラスメイトのフィーが、仲良く屈んで花壇に種を植えている。
その少し後ろには、リンデの双子の妹であるらしいヴィヴィが少々意地の悪い顔をして立っていた。
「しかし、どうして貴公の妹はこんなに悪い顔をしている?」
「ヴィヴィって昔から悪戯好きで。私にちょっかいばかりか
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