第五章
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う。それでも彼女は問わずにはいられなかったのだ。
「それしかありませんか」
「残念だがそれしかない」
彼はまたしても告げた。
「それしかな。それでよければ」
「そうですか」
「私には勧められない」
ゼウスは言う。
「起きぬ者と永遠に側にいても。悲しいだけだ」
「はい」
セレネーは今にも泣きそうな顔で応えた。その通りだった。自分だけ起きていてそこにいても相手は目覚めはしない。それでは愛がないのも同じだからだ。
「それこそ。自分も眠らなくてはな」
「自分も」
今のゼウスの言葉にはっとした。今のその言葉が。彼女の心を捉えるのだった。
「自分もですね」
「そうだが」
ゼウスはセレネーの今の言葉に答えた。
「まさかそなた」
「はい」
セレネーは静かにゼウスの問いに頷いた。
「そのつもりです。私は」
「だがそれは」
ゼウスはセレネーを止めようとする。止めずにはいられなかった。
「そなたにとっても」
「ですが。それで永遠に彼と共にいられるのですよね」
セレネーはそのことに希望を見ていた。それで彼と共にいられるというのならそれでいい、心からそう考えるようになってきていたのだ。
「それでしたら」
「よいのか?」
ゼウスはまた問うた。彼女を気遣って。
「それで」
「夢の中で彼と共にいられるのですよね」
「ヒュプノスがそうしてくれる」
眠りの神である。冥界においてハーデスの側に仕える神の一人だ。彼は人々に眠りを与えそれと共に夢も与える。それが彼の仕事なのである。
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