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白鳥の恋
第六章
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とが歌われていた。
「出るぞ」
「白銀の騎士が」
 ローエングリンで最も緊張する場面の一つだ。少なくとも第一幕では最も緊張する場面だ。
 その白銀の騎士が出て来た。長身の端整な男が白銀の鎧と白いマントを羽織ってやって来た。この男こそがローエングリン、そしてアーダベルトであった。
「よし」
 彼の最初の歌声を聞いた客達が会心の声をあげた。
「いい調子じゃないか」
「このままいけるな」
「いける」
 客の中の一人が言い切った。
「彼は最初の声を聴けばわかる。最初でな」
「最初の声でか」
「そうさ。最初がしっかりしていればそのままいける」
 そういうタイプの歌手であるらしい。
「今日は。いけるぞ」
「ではその言葉信じるぞ」
「ああ、信じてくれ」
 観客席でこう言葉が交えさせられる。舞台はいよいよ本番であった。
「決して私の名を聞かないでくれ」
 ローエングリンが妻に語っていた。
「知ろうとも考えてはいけない」
「決して尋ねたりはしません」
 それに対するエルザの言葉だった。もうその目はローエングリンに向けられている。ローエングリンもまた。観客達のうち勘のいい何人かはそれを見てあることに気付いた。
「むっ、あれは」
「あの二人は」
「どうしたんだ?」
 それに気付かない者が彼等に問うた。

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