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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第30話 フェザーンの夜
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=ボロディン大尉殿ですな。自治政府高等参事官のアドリアン=ルビンスキーです。よろしく」
 差し出される手は大きく、そして肉厚だ。軽く握っているのだろうが、こちらとしては万力に挟まれたかのような締め付けに感じる。
「よろしく。高等参事官殿」
「ルビンスキーで結構ですぞ。なにしろ役職で呼ばれては自分かどうか分からないものですからな」

 この傲慢さが当たり前のように聞こえてくるのだから、コイツは本当に恐ろしい。ルビンスキーが三六歳で自治領主となったのは、和平派の前自治領主ワレンコフが地球教のコントロールから逃れようとして事実上処刑されたからだが、まずもってそれなりの実力が伴わなくては長老会議での立候補すら出来ないのだ。転生して、これからの未来が少しは分かるとはいえ、小心者の凡人である俺にとってルビンスキーを見ると、いずれどんな形であれ相対することに恐怖を覚える。

「大尉は随分とお疲れのようだ。無理もない。五〇〇〇光年も旅してこられて、すぐにパーティーですからな。こういう世界に慣れていない若者にとってみれば、もはや拷問に近い」

 三〇代前半のルビンスキーの毒舌というか、皮肉はスパイスが効き過ぎている。当てこすられた感じのアグバヤニ大佐の肥満した顔も、時折ではあるがピクピクと痙攣している。まだ若い自治政府の要人を、年配である大佐が表だった場所で怒るわけにもいかない。自分自身への評判だけでなく、同盟とフェザーンの関係悪化を招きかねないからだが、大佐にとってどちらが重要かは俺は分からない。

 それを見越した上でこういうトゲの生えた言葉を投げかけてくるわけだから、ルビンスキーも人が悪い……いや、人が悪いのは分かっているんだが、原作ではこれほど直接的に言うような男ではなかったはずだ。むしろ、こういうどぎつさは彼の息子であるルパートの方が強かっ。ということは、この時点ではルビンスキーも才幹と若さの釣り合いがまだ取れていないということかも知れない。

「いえ、大佐のフォローのお陰で、小官はパーティーを楽しんでおります。高等参事官殿」
 若さなら負けるつもりはないし、ここで怯んでいるようでは後々で軽く見られる。もちろん軽く見られた方が俺としてはありがたいのだが、尊敬せざるとはいえ大佐は俺の上司であり、フェザーンにおける同盟軍の事実上の代表でもある。別に恩を受けたわけでも関心を買おうとも思わないが、ささやかな愛国心を見せるくらいはいいだろう。
「チキンフライ以外にも、フェザーンに料理があることを改めて教えていただけましたし。何事もよい人生経験だと思います」
「ふふっ。なるほど」
 俺の挑発にも黒狐は乗ってこなかった。むしろ怒りを見せるどころか、楽しんでいるかのようにも見える。しかし異相とはいえ絵になる男だ。グラスを傾ける仕草一つとっても隙がな
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