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雲は遠くて
59章 音楽をする理由について、清原美樹は語る
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、特に第二次大戦のあとに、ヨーロッパで、
実存主義という思想が展開されることでも、わかるかと思います。
実存主義とは、人間の実存について考えることを中心におく、
思想的立場、哲学的立場の、文学や芸術を含む思想運動のことです。
漱石は、1916年に満49歳で亡くなっているんですから、
世界的に見ても、すごい先見性のある作家だったことがわかる気がします。ね、みなさん!」

「うん、うん」と、最前列の女子高生たちが、笑顔で頷(うなず)く。

「きょうの授業のタイトルは『わたしが音楽をする理由』ですので、そのお話しに入るため、
ここからは、漱石はやめにしまして、ニーチェのお話しなんです。
なぜならば、ニーチェも実存主義の哲学者とは言われていますけど、
ニーチェは、まるで、漱石のあとに続く、自我意識を問題にした人でもあったと考えますけど、
ニーチェは、見事に、『自我なんて、実はただの思いこみでしかない』とか、
『すでにある、既成の真理といわれている論理や観念、それらはイデアとも呼ばれますが、
要するに現在ある、すべての既成の価値観などで、世の中を見わたすと、何事においても、
いつまでも自分の人生を肯定できないし、
満たされた人生を送ることができない』と言っているんです。
わたしは、ニーチェのこの考え方に大賛成なんです。人は何で、誰か、人間が作ったのに、
決まっているような思想や宗教によって、争いごとをおこすのでしょうか?
わたしにはまったく理解できないし、不条理なこと、つまり、筋が通らないこと、
道理が立たないことにしか思えません。不条理って、
わたしの好きな作家のカミュによって用いられた実存主義の用語で、
人生の非合理で、無意味な状況を示す言葉なんですよ。なんか、カッコいいと思いませんか?
高校生のみなさん!」

 美樹が、最前列の女子高生と男子高校生たちに話かける。

「カッコいいでーす!」と高校生たちは叫ぶように元気に答える。
会場からは拍手と歓声が沸き起こる。

「ご声援、ありがとうございます。ニーチェの言っていることって、
簡単して言っちゃいますと、こういうことなんだと思います。
『結局、既成の価値観とかの、不条理を背負っている限りは、
自分の人生を謳歌すること、つまり素直に歓ぶことはできない』と
ニーチェは、確信をもって言い切っているんですよね。
ニーチェって、既成の価値観に反抗するあたりは、現代の若者気質のようで、
ロック的といいますか、ロックンロール的ですよね。
わたしなんか、カッコいいなぁって思うんですけど、ニーチェの写真を見ると、
なぜか、がっかりしちゃうんです。ニーチェさん、ごめんなさい!」

 会場からは、また明るいわらい声。

「世の中に絶対的な真理なんてな
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