暁 〜小説投稿サイト〜
ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第29話 フェザーン到着
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
いおしぼりと、レモンスカッシュを置いていく。

「ボロディン大尉はお若いながらも中々慎重でいらっしゃる。ケリムでも随分とご苦労をされたようで」
「いや、それほどでも……」
 ズゾーッと音を立ててレモンスカッシュを飲む、三〇代半ばのボルテックはどう見ても小役人だ。だがその口から出てくる言葉は、俺の胃を刺激するのに充分な物ばかり。気分が悪いので俺もレモンスカッシュを飲み、また別の種類のチキンフライに手を伸ばすと、ボルテックもポテトを手にとって口に運ぶ。

「あ〜満腹でした」
 机の上の料理と飲み物が全て空になり、アテンダントがそれらを全て片付けると、ボルテックは腹をさすりながら言った。
「あ、お代は結構ですよ。これはあくまでも自治政府から大尉に対するお礼ですから」
「お礼、ですか?」
 別に軍人になる前もなった後もフェザーンに対してなんら便宜を図った事はないし、これからも払うつもりはない。確かにこのチキンフライは値が張るだろうが、これで買収できると思ったら大間違いだ。しかしフェザーンの意図はそんなことではないだろう。
 俺が改めてボルテックに問いただすと、ボルテックはウンウンと小さく頷いて応えた。

「ケリム星域で大尉は『ブラックバート』団をほぼ壊滅に追いやっていただけました。ネプティスの近くにある彼らの基地を撃滅してくれたことで、我らフェザーンの貿易船には充分な安全がもたらされたのです。この程度のお礼ではむしろ申し訳ないと思うくらいですよ」
「あれはリンチ准将の指揮で行われた作戦です。しかもケリム星域の掃討作戦は第一艦隊が主力で、私は何も手伝っていない。供応を受ける資格はないかと思いますが?」
「ご謙遜を。大尉は『埋伏の毒』を見つけ出して拘束したではないですか」
 エジリ大佐のことか、と俺は心の奥底で呟いた。拘束したのは俺ではない……俺の視線に気がついたのかは分からないが、ボルテックは鶏の脂で口が滑らかになったのか話を続ける。

「海賊にもいろいろ種類がありますが、『ブラックバート』団のような組織だった準軍事規模となるとそう多くはありません。大抵は港に密偵を潜らせておくのが精一杯の小さな組織ばかりです。同盟国内で我々フェザーンは武力を振るわけにはいきません。しかも『ブラックバート』団は規模も大きく巧妙で狡猾です。それを撃破してくださった。今後、同盟国内の他の海賊も恐れをなしてその活動を収縮させるでしょう。フェザーンとしては願ったり叶ったりなのです」
「なるほど」
 最近、ほんとうにパトリチェフみたいになっているなと思いつつ、そう応えるしかない。
「……ですが、首領は」
「分かっています。ロバート=バーソンズを取り逃がした、ことですな。ですがご安心いただきたい」
 ボルテックの目はそれまでより僅かだが細くなる。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ