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乱世の確率事象改変
相似なる赤と蒼は
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 肌に絡むような湿り気を帯びた風が吹いた。
 血の色を思わせる赤髪がさらさらと揺れ、首を擽られたからか、彼女は不快気に手で払いのけた。
 背負っている武器は大きな鎖鎌。最近は腰に据えてある予備武器の鉤爪ばかり使っていたが、手入れは怠っておらず、大鎌の鋭い光は容易に頸を刈り取る姿を思い出させる。
 薄い藍色の衣服に金色の軽装を重ね、この世界の武将達と同じく腰から下は鎧無し。ショートパンツとニーソックスが織りなす絶対領域、それを含んだ脚線美に見惚れる兵士達は多い。
 気だるげな表情で馬に揺られる彼女は、袁家の武将の中でも飛び抜けた力を持つ張コウ――真名を明、その人である。

 袁家の主力部隊は四つ。
 一つは猪々子率いる突撃が得意な戦バカの集まり。猪々子に向ける視線は子供のような憧憬が多分に含まれ、自分の力を誇示したいという男くさいモノが集まった部隊。
 一つは斗詩率いる協調性を重視する万能型。何処か守りたくなるような斗詩に率いられてはいるが、対応も連携も、彼女への信頼から揺れる事は無い。
 一つは強弩部隊。袁紹軍の虎の子として麗羽の周りに侍っているのが主であり、親衛隊の役割も半分兼ねている。

 そして最後の一つは、最近の戦働きで“紅揚羽”と異名が付いた明が率いる張コウ隊。嘗て且授が受け持っていた古参の兵達と、明が直接鍛え上げて来た精兵の混成。この部隊だけは他とは違い、明が告げる命令には一兵に至るまで絶対服従の死兵の群れであった。
 前の主に恩義を感じているモノも、明の見た目に落ちてしまったモノも、誰かを守りたかったモノも、自分が生きたかったモノも……一兵卒の隅々まで刻み込まれているのは明に対する恐怖心と、明と夕の二人に対する陶酔。
 部隊は率いる将の色に染められるモノだ。その率いる将が真っ直ぐに狂っていたのなら、兵達も引き摺られるように狂気に染まる。

「嫌な天気」

 重厚な雲が空を多い隠し、光が差し込む隙間も無い。雨が来ればめんどくさい事この上無いが、彼女の守るべき少女が天を見て予測した言によれば、地が泥に変わる事は無いらしい。
 不満を一言零して忌々しげに見上げた明は、馬の上で息を大きく吐き出して視線を前に戻した。
 これから行われる戦、数では倍を有する袁紹軍が有利である。されども、彼女は気を抜かない。兵数の有利などあってないようなモノなのだ。
 徴兵、というのは強制すれば不満が出るのは当然。今ここに集めた兵士達は、勝利時の昇進と言う名の餌に釣られた領主達に無理やり吐き出させた命数が多くを占めていた。士気は言うまでもなく低く、義勇軍のような民兵と練度はさほど変わらない。
 合併された袁術軍の兵士達もいるが、土地柄になれておらず、先の敗戦の意識を引きずっているからか心持ちそのモノ達の士気も低い。

 細作
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