相似なる赤と蒼は
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「サーイエッサー!」
噎せ返るような戦場には似合っているようで似合っていない声で、罵倒に似た鼓舞を放ちながら。
†
戦場の空気というのは読み取れるモノには分かり易い。
敗色であれ、勝ち気であれ、何処を攻めればどうなるか……長く戦場に浸っていればいる程に、手に取るように分かる感覚が増して行く。
袁家の三人は若い。夕も、明も、斗詩も、老練な武将達と同じモノを持つには戦場の経験が足りない。
しかしながら、経験が足りずとも、人の感情を読み取るに長けている二人は、その大きなうねりにも似た空気に敏感であった。
膠着状態の戦場で被害は増えるばかり。敵には目立った動きも無いが、そのまま力押しするだけでは欲しい結果は得られない。
「そろそろやろう」
「んー、そだねー。こっちまで怯えと負けの雰囲気が伝播しちゃったら意味ないし」
二人が示し合せる様が余りに自然で……これから起こす事が確実に成功すると斗詩には感じ取れた。
「ホ、ホントにやるの?」
それでも、愚かしい事だと分かっていても、聞かずにはいられなかった。これがどれだけ有り得ない策であるのか理解していたから。
「あったりまえじゃん? あんたはお綺麗なままで行けばいい。憎まれ役の汚れ仕事はあたしの本分だからさ」
「生きるか死ぬかはあなた次第。退き時も好きにしたらいい。もうこれで、私が描く結果には足り得るから」
どちらもの瞳は濁っていた。昏い暗い闇色の黒と、扇情と歓喜が濃い黄金。
兵の命がどうなろうと知った事では無いとでも言いたげな、残酷で冷徹な二人。
本来ならば熱く燃やさなければならないはずの斗詩の心は、今までにない冷気に包まれていた。
「はい、これが合図。猪々子と一緒で、あんたにもコレ使って貰うから」
渡されたのは金属で出来た笛。徐州で猪々子の部隊が徐晃隊の屍から回収したモノ。一個部隊での突撃を知らせる為に袁紹軍が使うと決めていたモノ。
受け取り、首に下げてみた。黒麒麟の嘶きと呼ばれる、元袁術軍に恐怖を植え付けた証を。
猪々子とお揃いであるのは嬉しかったが、街の人達を守る竹笛なら戦場以外で使えるのにと、斗詩は場違いな考えが頭を過ぎった。
「中央の後列は元袁術軍の兵士達を並べてある。その音は嫌でも耳に入ってしまうから、あなたの突撃は味方を殺す事は無い。全力で駆けて」
合図があればその方を見やるのは戦場では自然な事。其処に騎馬の群れが突撃してきたのなら、逃げ出すのも当然である。散々辛酸を舐めさせられた笛の音なら尚更上手く行くだろう。
「んじゃ、あたしが夏侯淵の方に向かったらやっちゃってー。楽進は“氣弾”と体術を使うから、一騎打ちするなら馬から降りないと分が悪いよー
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