相似なる赤と蒼は
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前列が避け、その珠が後続の兵にぶつかった。
瞬間、大きな爆音が響く。衝車が城の扉をぶち破る音より尚大きい、今まで聞いた事が無いような音だった。
肉が舞った。血が飛び散った。脳漿が弾けた。骨が四散した。三人か、否、纏まっていた為に五人は死んだ。
異質な音は思考を凍結させる。軍の脚が止まった。止めなければならなかった。それほど大きな音だったのだ。
強制的に突きつけられた脳髄の空白には、理解出来ないモノへの恐怖が湧いてくる。血を浴びた者に、肉の掛かった者に、脳漿がへばりついた者に、骨が突き刺さった者に……。
それは余りに凄惨な死に方であった。
楼閣の上から飛び降りるか、大槌で思いっ切り叩き潰されるか。いや、それでも足りないであろう。
目の前で走っていた人が弾け飛んだのだ。人というカタチを保てなくなったのだ。自分達の手の届かない所から、敵はそれを行ったのだ。
中央は恐怖を、目視出来ない他の場所は疑問を、そうして軍には混乱と隙が出来上がる。
脚が止まった突撃に意味はあるか……否。
左右はまだ矢の雨が降り注いでいた。そして中央は……土煙を上げて来る曹操軍に突撃を返された。
迫りくる敵に恐怖を覚えながらも、どうにか自分達も突撃を仕掛けたのだが……一人の兵士は、灰色の三つ編みが揺れているのを見た。大きな打撃音と共に、隣の男が消える。見やれば後続の兵を巻き込んで吹き飛ばされていた。間もなく、丸太を叩きつけられたような衝撃を胸に受けて、自分も同じようになった。遅れて胸が痛んだ後、その兵士の思考は真っ白になり、口から吐き出された血の味を最期に動かなくなった。
其処には少女が一人立っていた。浅黒い肌にキズを幾多も拵えて、背から闘志を燻らせて。
鋭い眼光に射抜かれた兵達は脚が竦んで腰が退けた。自分達は武器を持っているというのに、その少女は手甲を付けているだけで丸腰に見えるのに、誰も近づこうとしなかった。いや、出来なかった。
「……我が名は楽進。死にたい者から前に出ろ。弾けて死ぬか、殴り飛ばされて死ぬか、蹴り飛ばされて死ぬか、どれかを選べ」
獅子の如き眼光は強者を表す。圧しかかる裂帛の闘気は力の優位を決定させる。
『見ろ、あの傷の数を。どれだけの戦場を抜けてきたのか、歴戦の古強者に違いない』
ああ、これは自分達ではどうしようも無いモノだ……兵達はソレに勝つ事を諦め、どうにか逃げようと、弱い者から倒そうと、普通の兵士に向かっていく。そうして彼女に背を向ければ、無慈悲に殺されるだけだというのに。
中央先端は、たった一人の武将によって支配され、打撃音と剣戟が鳴り響く中で狩り場となった。
「うーん……なんかおかしいの」
戦場にしては緩い声を発して、沙和は首を傾げていた。
凪
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