相似なる赤と蒼は
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り多くの敵を殺せばいい……と。
恐怖は人の心を縛る。戦場でより濃くなるであろう狂気が、明の指揮能力を増幅させる。人の心に怯えを孕ませる戦場に於いて、背中という無防備な場所に刃が突き付けられているとなれば……前に逃げて、戦って生き残るしかないのだ。人心掌握の手段は正道だけでは無い。従わせる事が出来るならば、味方への恐怖であろうと使えばいい。
それは軍内の調和を投げ捨てた指揮方法。これからの軍内部に於ける評価も、倫理や道徳であろうと無視された、勝てばそれでいいという残忍なやり方。故に……彼女は“袁家らしく”人の道を外れている。
目を細めた明が笑っていた。幼さの見え隠れするその笑顔は、まるで気まぐれな猫のよう。
妖艶さも無く、狂気含んだ色も無く、今度は知性の光が輝く。
「でもさー。今回の戦、夕の言った通りにした方が面白くなるんだよね。相手が曹操軍だからこそ出来る事ってあるみたい」
「……私聞いてないよ?」
「戦の前に言わないとダメだったから黙ってたんだー。今回は即応重視の遊撃陣、相手の軍師と夕の力量が色濃くなる戦場なわけ」
「それって……」
「ふふっ、斗詩が兵を元気づけようと、何にも変わんないんだよ。ただ……あんたが楽進か于禁を殺せるかどうかは、甘い考えを捨てられるかどうかが大事かもー」
曖昧な説明では分からずに首を傾げる斗詩。
明は一度だけ後ろを振り返り、大切な少女に想いを馳せているのか甘い吐息を一つ。ゆっくりと振り向いてから……
「あんたが鍵、だよ? あたしと同じこと……ひひっ、出来るかな?」
舌を出して笑った。
「いい? あたし達がする事はね――――」
後にゆっくりと零されていく説明は、斗詩の顔をまた蒼ざめさせた。
震えが強くなって言葉を紡げない。もう決められているから、反論など許される状況では無かった。やると言ったら、明と夕の二人は必ずやる。
「あとさ、あたし達に秘密でなんかしてない? この戦の事だけじゃなくて、さ」
恐怖でこじ開けられた心の隙間に差し込まれるは槍の如き問いかけ。唐突に話を変えて頭の中を覗くのは彼女達がよく使う心理掌握の手段。
冷たい視線が突き刺さり、ギクリと身体を跳ねさせそうになった。
心の奥底まで見透かそうかという瞳には殺意の色が揺れる。機械的で人形の如きその眼は、斗詩に対して敵か否かを尋ねていた。
信頼は無く、信用も無く、返答を間違えば此処で殺されかねない。
思い浮かぶのは一つ。麗羽からの、且授を助ける為に下された命令。不手際で誰かにバレる事が無いようにと独自で動いているから、監視の厳しくなっている明にさえ伝えられていなかった。
斗詩は迷った。この場で言ってしまっても良いモノか。幸い、誰も周りには居ない。聞こえるはずも無い。
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