暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
相似なる赤と蒼は
[13/17]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
なんて……有り得ない。

 馬を進めて前を見た。混沌とした戦場が其処にあった。
 より一層湧き立つ土煙は戦いの激しさを、断続的に上がる悲鳴は命が容易に散り去る嘆きを、歓喜と怒気を含んだ雄叫びは生きたいと叫ぶ願いを。
 一定の戸惑い乱れる兵を残して乱戦となった場所に向けて、引き付けておいた大鎌を一度だけ薙いで指し示す。

「仕事だクズ共。あたしの為に、夕の為に。殺して殺して、血に塗れて死に腐れ。あたしにお前らが持つ命の輝きを喰わせろ。続けっ」

 返答を待たずに馬を駆った。静かで冷たい彼らの声が背中を推した。疾駆する速度は全速力。味方だろうと敵だろうと関係ない。もう誰が味方かも分からない。
 新兵達は不可測の動きをする第三勢力に等しい。烏合の衆の思考は、敵軍師には読むことなど出来はしない。
 だから、あたし達がもっと……掻き乱してあげる。

「死にたい奴から前に出ろ! 紅揚羽、推し通るっ!」

 部隊を引き連れつつも単騎掛けで道を切り拓く。黒麒麟がしてきたように、人を殺すだけしか出来ない暴力を、己が身を槍として突き刺すのだ。
 敵も味方も、あたし達の道を塞いで動かない奴は皆……敵。

 紅い紅い液体が、あたしの心を疼かせる。
 絶望に落ち込んだ瞳が、あたしの胸を跳ねさせる。
 血と汗と臓腑の匂いが、あたしの脳髄を溶かしていく。

 これが世界の在り方だ。争い、奪い、奪われて……醜悪な現実はいつもいつでも変わらない。生きるか死ぬか。死んだらただのクソ袋。
 でも、乱世の果てまで生き残れるなら……

――なんになるんだろ。

 考えなければいい事なのに思い浮かんでしまうあたしは、もう昔には戻れない。
 誰のせいだろう。猪々子のせいかもしれない。変わっちゃった夕のおかげかもしれない。でもきっと……あの人のせいでもある。
 人を殺す快感が何処か足りなく感じた。
 血に疼く自分の心がいつもより疼いていなかった。
 嗜虐的な高揚はあるはずなのに、前までのように気持ちよい感じは小さい。
 ただ、頭に夕の笑顔が思い出されたから、力が湧いてきた。

 初めてかもしれない。戦で勝ちたいと思ったのは。
 初めてなんだろう。本当の意味で夕の為に戦っているのは。

――どれだけ他人が死んでも構わないけど、あの子だけはあたしが守る。だから……

「にひっ♪ あんたには負けないよ、覇王の蒼弓っ!」

 遠く、一人の将が馬の上。弓に矢を番えながら……あたしと同じ笑みを浮かべていた。
 鷹の如き眼差しは鋭く、背筋に湧く気持ちいい殺気が思考を一つに絞っていく。

――あんたはやっぱり似てると思う。

 放たれた矢は一度に三本。鎖を回すだけで叩き落として、同じ笑みを深めて向けてやった。
 あいつに楽しいかと
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ