相似なる赤と蒼は
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なんて……有り得ない。
馬を進めて前を見た。混沌とした戦場が其処にあった。
より一層湧き立つ土煙は戦いの激しさを、断続的に上がる悲鳴は命が容易に散り去る嘆きを、歓喜と怒気を含んだ雄叫びは生きたいと叫ぶ願いを。
一定の戸惑い乱れる兵を残して乱戦となった場所に向けて、引き付けておいた大鎌を一度だけ薙いで指し示す。
「仕事だクズ共。あたしの為に、夕の為に。殺して殺して、血に塗れて死に腐れ。あたしにお前らが持つ命の輝きを喰わせろ。続けっ」
返答を待たずに馬を駆った。静かで冷たい彼らの声が背中を推した。疾駆する速度は全速力。味方だろうと敵だろうと関係ない。もう誰が味方かも分からない。
新兵達は不可測の動きをする第三勢力に等しい。烏合の衆の思考は、敵軍師には読むことなど出来はしない。
だから、あたし達がもっと……掻き乱してあげる。
「死にたい奴から前に出ろ! 紅揚羽、推し通るっ!」
部隊を引き連れつつも単騎掛けで道を切り拓く。黒麒麟がしてきたように、人を殺すだけしか出来ない暴力を、己が身を槍として突き刺すのだ。
敵も味方も、あたし達の道を塞いで動かない奴は皆……敵。
紅い紅い液体が、あたしの心を疼かせる。
絶望に落ち込んだ瞳が、あたしの胸を跳ねさせる。
血と汗と臓腑の匂いが、あたしの脳髄を溶かしていく。
これが世界の在り方だ。争い、奪い、奪われて……醜悪な現実はいつもいつでも変わらない。生きるか死ぬか。死んだらただのクソ袋。
でも、乱世の果てまで生き残れるなら……
――なんになるんだろ。
考えなければいい事なのに思い浮かんでしまうあたしは、もう昔には戻れない。
誰のせいだろう。猪々子のせいかもしれない。変わっちゃった夕のおかげかもしれない。でもきっと……あの人のせいでもある。
人を殺す快感が何処か足りなく感じた。
血に疼く自分の心がいつもより疼いていなかった。
嗜虐的な高揚はあるはずなのに、前までのように気持ちよい感じは小さい。
ただ、頭に夕の笑顔が思い出されたから、力が湧いてきた。
初めてかもしれない。戦で勝ちたいと思ったのは。
初めてなんだろう。本当の意味で夕の為に戦っているのは。
――どれだけ他人が死んでも構わないけど、あの子だけはあたしが守る。だから……
「にひっ♪ あんたには負けないよ、覇王の蒼弓っ!」
遠く、一人の将が馬の上。弓に矢を番えながら……あたしと同じ笑みを浮かべていた。
鷹の如き眼差しは鋭く、背筋に湧く気持ちいい殺気が思考を一つに絞っていく。
――あんたはやっぱり似てると思う。
放たれた矢は一度に三本。鎖を回すだけで叩き落として、同じ笑みを深めて向けてやった。
あいつに楽しいかと
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