相似なる赤と蒼は
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開くかのようにも、華が咲き誇るかのようにも見えた。
鎖に伝わる感触が心地いい。断末魔の悲鳴が耳に気持ち良さを与えてくれる。綺麗な綺麗な紅色に、うっとりと見惚れてしまいそう。
これで彼らの心の隅々にまで恐怖が行き届いた。
張コウ隊に向かって来るか……否。
散り散りに逃げ出すか……それもまた否。
逃げようとした兵が瞬く間に殺されれば、実力の違いとこちらの本気を理解して、限定された思考は怯えと抵抗と憎しみを芽生えさせる。
それは何処へ向かうか。敵を倒さなければ、彼らに生きる道はない。だから、彼らは味方を押しのけてでも敵に向かう。兵列を乱して最先端に繰り出す兵士達。混乱が助長され、狂気が噴出し、思考は死にたくない想いに引き摺られていく。
弱卒達は烏合の衆になった。擬似的な死兵でもあった。凶悪で粗雑なケモノとなった彼らは、敵を殺すという単純明快な目的の為に命を燃やし尽くす。
混乱しているように見えても向かってくるこちらの軍を見て敵はどう思う……曹操軍ならば当然、正道で抑えようとするだろう。
カチリ、と戦場の空気が変わった音がした。敗色では無く、勝ち気でも無く、混沌とした気味が悪い空気だった。あたしにとっては、ヒトゴロシの仕事で慣れた空気だった。
「いいねー、いい感じだよ? ひひっ、もっともっと狂えばいい。そうして生き残ったあんた達は……」
――あたしへの恐怖で縛られて、より強い兵に生まれ変われる。逃げ出して賊に堕ちる弱者達は、曹操軍が殺してくれる。
これは叩き上げ。戦場で絶対服従の精神を身に沁み込ませる為の、いわば洗礼。秋兄が徐州で新兵を強くしたように、あたしも此処で“練兵”をさせて貰おうか。
漸く戦場に笛の音が響いた。
わざと攻撃させずに開けていた真ん中の部隊に、斗詩が騎馬隊を引き連れて突撃を仕掛けていた。
予定通り、中央だけが真っ直ぐな戦に見えるように仕掛けられただろう。
楽進か、于禁か……どっちも釣れたら儲けモノ。味方を生贄に捧げて得た異質な戦場を掌握しきるには、どちらか一人では足りない。もちろん、夏侯淵はあたしが抑えに行かなければならないが。
見れば矢が止んでいた。さすがに夏侯淵のような将ならばこの戦場の空気に気付くだろう。
如何に速くあたしがあいつまで辿り着くか……それだけが問題。
夕は心配を欠片も浮かべずに待ってるだろう。後ろを振り返って、動かない田豊隊を見ればすぐ分かった。
――大丈夫♪ ちゃんとあたしはあなたを守る為に戦うから。例えどれだけの命を犠牲にしようと、ね。
兵から聞いたからやり方は知ってる。練度が足りなくてもそれくらいは出来る。あたしの部下達は……鼓舞なんかしなくても命令には従順なんだから。
――あの人がいつもしてた事があたしに出来ない
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