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その魂に祝福を
魔石の時代
第四章
覚悟と選択の行方2
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さんの言葉が鋭くなる。何かを言わなければならない。そう思ったのだけれど。
「あの世界のためにジュエルシードを集めていたあなた達を攻撃してアルフを殺したばかりか、何も知らない妹さんまで騙して利用するなんて」
 いくつもの矛盾。考えるまでもない嘘。残酷な現実。……それでも、母さんがそう言うなら。きっとそれが正しいのだ。それを信じれば、もう迷わないで済む。
「いい。フェイト。よく聞きなさい」
 母さんの掌が背中を撫でる。母さんのぬくもりが身体を包む。優しい声が全てを染め上げていく。それらすべてが甘い毒となって、私を――フェイト・テスタロッサを狂わせていく。それでもいい。このぬくもりが手に入るなら。……そう思う。
「あなたがあの二人を助けてあげなさい。光君は酷い火傷を負っているわ。放っておいたら命にかかわる。だけど、安心して。あの子達の持つジュエルシードがあれば、ちゃんと助けてあげる事が出来る。これ以上、管理局に何かを奪わせてはダメよ。あの二人を、貴方が守ってあげるの。いいわね?」 
 そのために、残りのジュエルシードを必ず持ってきなさい――母さんの言葉に、私は躊躇わずに頷いていた。だって、それが今の私が存在する意味なのだから。




 夢を見たように思う。
 悲劇に見舞われた母親の夢だ。不条理を前にただ狂う事しか許されなかった、ただの女の夢だった。……そんな気がする。夢は夢らしく曖昧だった。
 だが、それがただの夢ではないのだと言う事も分かっていた。この感覚には覚えがある。かつてマーリンが――恩師の相棒が予知夢と呼んでいたのは、繰り返された世界の記憶だった。その本質が受け継がれた過去の記憶の再現だと言うのなら、自分の『夢』も質は同じだろう。『奴ら』の知恵が、あるいは力が本来知りえなかった過去を垣間見せる。ただそれだけのことだった。『奴ら』の知恵を宿した自分にとって、叡智とは積み上げ掴み取るものではない。器を用意し、汲み出していくものだ。それが夢を器代わりに、ほんの一時零れ出してきたにすぎない。目を覚ませば――器がなくなれば忘れてしまうだろう。そうでなければ、自分は自分でいられない。歴代ペンドラゴンのように記憶を失うか。歴代『マーリン』のように自分を失うか。……自分が選んだのは、初代ペンドラゴンのように自分の『外側』に記録する事だったが。だが、リブロムとの繋がりも今は不完全だ。この『夢』は単なる夢として記憶から消えていくだろう。だが、単なる夢だからこそ――全てが消えてなくなる訳ではない。
「憐れな、女だ……」
 プレシア・テスタロッサとの邂逅を終え、何とかフェイトの部屋に戻ってから――意識を取り戻して最初に呟いた言葉はそんなものだった。夢路の向こう側から持ち出せた感情は、深い憐れみと憤りだった。誰に対して何故そんな感情を抱いたのか。
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