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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第28話 雨宿り その2
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俺もキャゼルヌも項垂れて応えるしかない。少なくとも二〇になったばかりの彼女の方が、遙かにイロナの気持ちを理解していた。だらしない男達は直ちにリビングから追い出される羽目になる。

「まさかお前さんが義妹さんのことで悩んでいるとはさすがの俺も考えになかった」
 ブランデーを注いだグラスを傾けつつ、狭いソファで足を組んだキャゼルヌは、俺にも一つ寄越してくれた。
「もっとも分かっていたとしても、なんら対策が取れないというのはかわらないのだがね」
「こういうとき、男はだらしなくていけない」
「全くだ。酒を傾けるぐらいしか能がない……それで今度の人事、お前さんはフェザーン行きだそうだな」
 ヤンにもワイドボーンにも話していない次の赴任先をキャゼルヌに言い当てられ、俺はさすがに驚いたが、すぐにその漏洩先の顔を思い出して舌打ちせざるを得なかった。

「……あのクソ親父。どうしてこうもペラペラ喋る」
「目下、次の次の統合作戦本部長と言われるシドニー=シトレ中将を『クソ親父』よばわりできるのはお前さんぐらいだろう。そのシトレ中将閣下は次期第八艦隊司令官に内定しているが、その副官にお前さんの名前が挙がっていたんだ」
「あぁ〜副官ですか……人事部がNOを突きつけたんでしょうね」

 リンチに続いて、シトレの副官をする。副官の任用権は軍司令官にあることは同盟軍基本法によって保障されている。司令官がこういう副官が欲しい、といえば人事部は経歴・実績・能力・そして『色』を見て、適当な人材を推薦する。勿論、司令官から直接『コイツ』と指名することも出来るが、人事部がそれを認めない場合もある。特に今回はそうだろう。
軍政を担当する国防委員会が一番恐れているのは、幕僚以下が司令官のシンパで構成され軍閥化することだ。ヤンが査問会に呼ばれたことも、ユリアンやメルカッツをイゼルローンから引き離したことも、根源はそこにある。
 ましてボロディン家という将官家系で、幼少の頃から顔見知りである相手を副官にしたいと言えば、シトレの黒い腹に余計色がついて見えたに違いない。士官学校卒業と同時に査閲部への配属などで人事部も『そろそろシトレ中将も自重して欲しい』と思ったことだろう。

「だが今回、お前さんを欲しがったのは情報部だ。お前さん、ケリムでなんかやらかしただろ? 第一艦隊の緊急出撃といい、大規模な海賊討伐といい、第七一警備艦隊解散といい、ケリムでは大鉈が振るわれたしな」
「私は何もしませんでしたよ」
「詳しくは聞かんさ。だが妹さんのこともある。フェザーンでは充分に自重しろよ。同盟の駐在武官が何人も奴らの甘い囁きに手玉にとられた。出来の悪い兄貴でも、無くしたら気の毒だしな」
「四日後、人事部に出頭すると大尉に昇進することになりますが」
「そうか、それはよかったな」
 
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