W バースデイ・アゲイン (6)
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まならそのほうが好都合だった。
麻衣の目にじわじわと涙がたまっていく。
「あたし、また間違えた……ジーンの時と同じに……ナル、って。あたし、ナルのこと、ずっと」
「倖」
情けない。声が震えてる。怯えてるのか? たったさっき死の呪いを克服したこの僕が?
「倖、って呼んでほしい。母さんには、そう呼んでほしいんだ。もう誰もその名前で僕を呼ばなくなったから、母さんにだけは――」
「………こ、う……」
「もう一回」
「倖……?」
「もう一回っ」
「倖……倖!」
ああ――
胸が、いっぱいだ。
「ありがとう、母さん」
麻衣は――母さんは僕に抱きついて来た。精一杯背伸びして、目いっぱい僕を抱きしめようとしてくれている。
僕も母さんを抱きしめた。
遠い昔に喪った母親の腕。ぬくもり。やっと思い出せた。やっと取り戻せた。
「倖、やっぱりあたし……!」
「その先はダメだ。母さんは帰って父さんと結ばれないと。僕の存在自体がなかったことになる」
母さんはぐっと唇を噛んだ。すごい顔。ぐちゃぐちゃだよ。
「さよなら、若い頃の母さん。母さんに逢えて、本当に――嬉しかった」
腕から母さんを出す。
名残惜しいけれど、これが正しい形だ。この時代には母さんは、谷山麻衣は、マイ・デイヴィスは生きていない。
僕は、独りなんだ。
母さんは堪えるように拳を握り、僕に近寄った。
「倖」
呼びかけられて、キス、された。向けられるのは優しい笑顔。
母、さん?
「あたしも嬉しかった。ありがとう。あたしに……お母さんに、こんな幸せな時間をくれて……ありがとう」
混乱してるのに、残酷な未来を知ってしまったのに、そう言ってくれるのか。
――僕は時間が許す限り母さんを抱き締めていた。母さんの腕も僕の背中を撫で続けてくれた。それがまるで、自分がいなくなったあとも僕に慰めを残そうとしているようで、胸が詰まった。
なんてまっとうな感情、まっとうな情愛。こんなにも劇的に心が蘇るなんて。
ゆっくりと感触がなくなっていく。でも離さない。この世界から消える瞬間まで、母さんの感触を記憶しておけるように。
――愛してる――
全て消えてしまう寸前、耳に旋律みたいな優しい声が届いた。
……………
…………
………
……
…
「これがあなたの望んだ結末ですか?」
麻衣が消え去って僕一人になってから、僕は問いかけた。――背後に居るに違いない存在に。
「貴方がこの結末を幸福と感じるなら、それは確かに私の望んだ世界」
多節棍を神官の錫杖のように持った、白い魔女。
幾度となく僕の前に現れ
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