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皮肉を愛す女
皮肉を言う女
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持たない手なのに、大切な人を抱きしめられない理由はなんなのだろう、と思っただけだよ」


 その時のγの表情を、私は知らない。傷ついていたのか、怒っていたのか、悲しんでいたのか。興味はあったけれど、私は知るべきでないと思ったのだ。だって、原因は間違いなく私の悪意なんだ。

 皮肉のつもりはなかったの。思ったことを言ったまでなのよ。それであんなことを言ってしまうのだから、私は素で皮肉を作り出してしまうような、そんな嫌な人間なのだろう。私は、無意識に皮肉を作りだしてしまう、そんな天才なのだ。


「シーナ。お前のような皮肉の塊の人間は、死んでも文句言えねぇさ、きっと」

 搾り出したような声だった。





(それでも私は、アリアさんが愛してくれたこの“皮肉”を捨てることはできないんだよ、γ)








 時を待てと、ユニは何度も繰り返し言ってた。それは、私が百蘭の元に行くまで続いた。その時がいつなのか、聞かされることも訊ねることもなく。
 私はまた、何も知らないまま大切な人間の下から飛び立ったのだ。

 楽なものだった、ジェッソファミリーに潜入するのは。私は日本に居た時代、入江正一と知り合いだったし、たいして疑われることも無く、入江正一の助手としてファミリー入りできた。そして、スパイとしての役割を、きちんと果たしていたのだ。
 ボスの名は百蘭。謎は多いが、慕う者多し。戦っている所を見たことは無いが、周りの反応からしてなかなか強いだろうと推測。それから、入江正一の話。ファミリーの大まかな人数、編成、重要人物、戦い方。それらを、不定期にジッリョネロへ報告。誰にもばれていない。私は完璧なはずだった。そう、私はどこも間違ってなんて、いなかったのだ。
 恥ずかしながら、私はスパイとして活動しておきながら、幻騎士の行動を知らなかった。彼が百蘭を崇拝していることを知ったのは、ミルフィオーレが成立してからだ。彼がジッリョネロを裏切っていると知っていたなら、何が何でも、そうなる前に幻騎士を殺していたというのに。

 プルルルル、と携帯電話に耳を寄せ、今か今かと相手が電話に出るのを待ちつづける。焦っていた。冷静さは、確実に欠いていたといえるだろう。

「ユニ?! どういうことなの?! 百蘭との会談に出向くなんて……!!」
『シーナ、そこはどこ? アジトなのなら、そんな大きな声で電話したりしてはダメよ』
「大丈夫、誰も居ないし絶対に来ない。それよりも、質問してるのは私だよ、ユニ。どういうことなの。無謀だよ、百蘭と話なんて! あいつと話なんて、できるわけない!」
『大丈夫よ。無謀なんかじゃないわ。シーナ、信じて』
「そりゃ……信じてる、けどっ…………」
『忘れないで。シーナがスパイをするというときに
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