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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第23話 初陣 その3
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ィスから海賊に向けて通報艦が発進し、海賊は我々の到着以前に大型艦で逃げおおせた」
 エジリの声ははっきり部外者と言わんばかりで、いっそ清々しいものだった。
「我々がこの星系でうろうろしている内に、海賊はアレスW星系へとまんまと逃げおおせたわけだ……おそらく我々が撃破した一五隻の海賊艦はすべて無人艦、と考えるべきだろう。根拠地の爆発もすべて自動制御だ」
「俺達は海賊艦を血祭りに上げ、根拠地を粉砕して、任務は成功とイジェクオンに凱旋する……そして間をおかずに『ブラックバート』が再び活動する。俺達は体のいい笑いものになるわけだ」
 リンチは思いっきり右拳で簡素な作りの机をぶったたく。派手な振動と共に、並べられたコーヒーカップがカチャカチャと擦れた音を立てる。
「司令部共め。ベレモンかパトラックか、それとも両方か知らないが、この俺をコケにしやがって!!」

「……ですが本当に星区司令部から情報が漏れたのでしょうか?」
 机の振動が収まった段階で、顔だけは冷静な(頬の一部がぴくぴくしているが)オブラックが余計な口を挟む。
「たまたま偶然ということもあるでしょう。司令部が早々情報を外部に、しかも海賊に漏らすなど……」
「そ、そうです。リンチ司令。仮にも海賊討伐は星区防衛司令部の主任務の一つです。その司令部が反逆罪を犯すような事をするでしょうか」
「理由など知るか。憲兵に二人を締め上げさせれば分かるだろう」
 少しだけ息を吹き返したカーチェントに、リンチは吐き捨てるように言った。コケにされた、あるいはされかけたことに腹が据えかねているのは一目瞭然だ。目からは火が出そうな感じだ。だが口から出てきた言葉は、それどころではなかった。
「第七一警備艦隊所属全艦に、惑星イジェクオンの上空制圧と宙域封鎖を命じる」

 リンチの言葉に、会議室の空気は凍り付いた。無関心を装っていたエジリですら、リンチに驚愕の表情を見せている。誰もリンチに対して口を開くことが出来ない。それはそうだ。
「……それでは第七一警備艦隊が星区司令部に叛乱を企てる形になってしまいますが?」
 誰も話さないので、俺はリンチに確認した。リンチは俺を一度睨んだ後で視線を逸らしてから応える。
「致し方あるまい。仮に軍法会議なっても、目的が二人の拘束ならば正当性を主張できるだろう」
「できないと、小官は考えます」
「なぜだ?」
 リンチの疑問に、俺は正直応えることすら面倒に思えた。こんな事すら分からないのかと失望どころの話ではない。頭に血が上って冷静になれないのはわかる。ここにいる人間が言いふらすような胆力を持っていないと解っていても、容易に口に出すようでは処置なしだ。艦隊警務部に通報して拘束してやりたい気分は山々だが、従犯として巻き込まれるのは勘弁だから丁寧に答えるしかない。


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