暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
魔石の時代
第四章
覚悟と選択の行方1
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ろう。
 セルト人もロムルス人も無い世界。それが、自分が受け継いだ世界だった。
 これは自分が人間としてその世界で生きていた頃――とある小さな村で、村つきの魔法使いとして怪我人や病人の治癒や近隣の魔物討伐などを請け負っていた頃の事である。
「この村に■■■■という魔法使いはいるか?」
 彼女がその村に訪れた際の第一声はそんなものだったらしい。当時は世界の復興も随分と進み、『国』と呼べる規模の集落もいくつも生まれ始めた。それ自体は喜ばしい事だが、『国』が生まれればそれ同士の争いが生まれるのも必然だった。それまでもあった集落同士の小競り合いとは規模の違う争い、つまり『戦争』の再来。神話の向こう側にあったその言葉が、再び現実となって蘇って久しい。旧世界と異なるのは、その軍のなかに魔法使いがいる事だろう。旧世界では考えられない事だが、騎士の――貴族の称号を持つ魔法使いも、もはや珍しくなくなった。別にそれ自体に問題がある訳ではない。だが、騎士や貴族から没落した、または傭兵として戦場を転々とする魔法使いは他の人間と同じく野盗と化す事も少なくない。それは多くの集落にとって魔物に近い――あるいは、それ以上の脅威となる。当然だ。彼らは知恵を以って襲撃してくるのだから。
 そのため、この村のような小さな集落は良くも悪くも魔法使いの来訪には敏感だった。その結果、その一声は瞬く間に村中に行き渡り、結果として彼女が自分の元に辿り着くのにさほどの苦労はなかったという。まぁ、それは村の連中が薄情だったと言うより、無駄に悪戯心にあふれていたせいだろう。彼女の右腕は白く染まっていたし、身なりも整っていた。それに何より大層な美人だった。
 全くとんだお節介焼きどもだ。だからこそ、彼女の自分に対する第一声は連中の度肝を抜いた事だろう。
「お前に決闘を申し入れる」
 久しぶりに顔を合わせた途端、剣を引き抜きながら彼女は告げた。
 久しぶりというのは伊達ではない。この村に流れ着く少し前、新生アヴァロンからの……厳密に言えば、そこに所属するとある魔法使いから個人的に依頼を受けた自分は、彼女を救済していた。もっとも、その時は道中で偶然合流したサンクチュアリの魔法使いに身柄を預け、すぐに立ち去ったためろくに会話もしなかったが。
 不義理と言えば不義理だったかも知れないが……とはいえ、決闘を申し込まれるほどだとは思えない。そもそも、あの時彼女はろくに意識も無かったのだから。
 あの後、サンクチュアリの魔法使いに何かされたのだろうか?――その可能性もすぐに否定した。同行した魔法使いは顔見知りであり、しかも生粋のサンクチュアリ派ともいえる女司祭だった。救済した人間に無体を働くとはまず考え難い。
 まぁ、右腕に宿る恩師達の記憶を辿れば、色々とろくでもない目に会った記憶はいくでも思い出せる。
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