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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第22話 初陣 その2
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賊の戦艦が逃走の最後尾についている。どうやら盾になるようだな」
「やはり元軍事経験者でしょうか」
「だろうな。味方の撤退を助ける為に最後尾につく、というのは誇りを持つ軍事指揮官ならば常識だ」

 その常識をアンタは近い将来破ることになるだろうね。と心の中では思いつつも、俺は表情に出すことなくメインパネルに映る戦闘の状況を見つめる。八〇隻近い艦艇が、残り七隻目がけて砲撃を集中させる、極めてワンサイドな戦闘だ。追撃側が砲撃精度を上げるため、火力を制限してはいるが、全艦撃沈もそう遠いことではない。しかも彼らの逃走方向に配置されていた巡航艦や駆逐艦は、追撃艦からの砲火に巻き込まれないよう、ゆっくりと彼らに向けて逃走ルートを開きつつ、後進旋回して逃走ルートの中心軸に主砲を向けつつある。その動きはゆっくりではあったが、非常に理に適っているものだった。やはりリンチの軍事指揮官としての、あるいは訓練教官としての能力は高いと認めざるを得ない。

 しばらく追撃風景を見つめていた俺だったが、残りが五隻になったところで不思議に思った。海賊艦は俺の見ている数分間だけだが、進路を全く変更していない。ついに海賊側の戦艦が撃沈して、戦艦ババディガンの艦橋は歓声に包まれたが、俺は逆に不審感が増大した。
「司令官閣下。逃走集団が無人艦の可能性はありませんか?」
「宇宙海賊にとって、命以上に貴重な戦闘艦艇を無人にする理由があるか?」
 質問に質問で返され、俺は一瞬胃袋の中で嫌な思いが渦巻いたが、それを吐き出すことなく応えた。
「命は一つしかありません。戦艦は確かに貴重ですが、代わりとなる艦はあります。むしろ小官としては、根拠地攻撃を行っている部隊の安全が気にかかります」
「あまり話を飛ばすな。無人艦の理由は?」
「逃走進路が直線的です。回避行動も機械的で、人為性を感じません」
 リンチは俺の返答に、腕を組んで画面を見たまま黙った。さらに一隻撃沈したところで、俺に顔を向けて言った。

「海賊の首魁はここにはいなかった、ということか?」
「その判断は出来かねます。根拠地に『置き土産』が置かれているかどうか、で判断できるかもしれません」
「『置き土産』?」
「『ブラックバート』団は液体水素燃料を略奪することが多い集団です。配下艦艇の数が多いとはいえ、タンカーの搭載量はかなりの量になります。艦艇の腹を満たすには十分です。それを一ヶ所にまとめ、着火させれば」
「水素の爆発温度ぐらいで艦艇の装甲がどうなるとも思えんが?」
「略奪したタンカー内部で保管されているのであれば、タンカー自体が爆弾になります。しかも敵の根拠地は円筒型です。内部へおびき寄せて一気に破壊する『置き土産』です」
「至急、別働隊に連絡をとれ!! 接近一時中止、距離を取って包囲待機するように!!」

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