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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第22話 初陣 その2
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隻くらいは必要ですね」
 カチカチと自分の席に戻って軽くカーソルを叩いた准尉の返答に、俺は大きく溜息をついた。その溜息が意外だったのか、彼女は細い顎に指をあて、艦橋の天井をしばらく見上げた後、「ちょっと待って下さいね」と言った後、再びカーソルを叩きはじめ、一分もせずして小さなペーパーにプリントアウトした。

「副官殿の権限で出来そうな方法と言ったら、多分これくらいでしょうか」
「えっ?」
 ほっそりとしたきめ細やかな手から渡されたペーパーから、俺はしばらく目を離せなかった。ペーパーには小惑星帯周辺で観測可能な範囲とそれに必要な艦艇数を記してある。巡航艦三個分隊(三〇隻)を一週間つかって何とか計測できるプランだ。かなり大雑把であるし、リンチが俺の私的な意見の為に巡航艦の三個分隊を派出してくれるとは思えないが、実現不可能ではないレベルのプランでもある。
「あ、ありがとう。これは助かる……えっと」
「イブリン=ドールトン准尉です。戦艦ババディガンの航法予備下士官を務めています。ボロディン中尉殿」
「えっ?」
「どうかしました?」
 俺が驚いた声を上げたせいで、彼女……イブリン=ドールトン准尉が小首をかしげて俺を見つめる。確かにポプランが原作で言っていたように唇が薄ければ完璧、といっていい。彼女の名前を聞いたら『不倫』の一言しかすぐには思い出せないが、たしか捕虜交換の際にハイネセンへ帰還する船団の航法士官を務めていたはずだ……あれが七九七年だからえっと……

「幾つなんだっけ」
「……二一歳ですが、なにか?」
 俺の思考が思わず口先に漏れ、先ほどの好意的な態度が一転。彼女は一気に白けた視線を俺に向ける。それで俺はすぐさま自分の失点を悟った。
「い、いやその。一七・八歳かな、と思って……」
「えぇ。いつも見た目より若く見えるって言われますが、なにか?」
 フォローどころかさらに墓穴を掘ってしまったらしい。俺は早々に敬礼して、ドールトン准尉の返礼を待つまでもなく、司令艦橋へと走って戻った。
 
「おやおや、士官学校首席卒の期待の若手は、そちらの方も手が早いらしい」
 司令艦橋の最後の上り階段ですれ違いざま、なかなか怖い表情をした後方参謀のオブラック中佐に皮肉られた。相手にされませんでしたよ、と軽く返すと、三〇代後半にしては若く見える整った顔つきの中佐は“フフン”と鼻先で嘲笑って、俺とは逆に階下へと降りていく。怒りよりも呆れの方が多い内心はともかく、その背中に一応敬礼してからリンチの傍へ戻った。

「まだ戦闘は終わってないぞ」
 リンチもまた俺とドールトン准尉の動きを見ていたらしく、視線を向けた早々に俺に皮肉を飛ばしてくるが、その顔はオブラックとは異なり「仕方ない奴め」といった雰囲気だった。
「貴官が居ない間に三隻沈めた。海
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