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第一章
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れ」
「その声は旦那様ですか?」
 ここで部屋のカーテンの裏から声がした。若い女の声だった。
「もしや」
「そうだ、そこにいたのか」
「はい」
 出て来たのは一人の淡い桃色の絹の服を着た儚げで触れれば折れてしまいそうな美しい女だった。顔立ちは切れ長の黒目がちの目を持ち白く細いもので非常に整っていた。長い黒髪を奇麗にまとめている。確かに美しいが何処か頼りなくそれが儚さを余計に表わしていた。
「まだこちらにおられたのですか」
「だがそれも終わりだ」
 徐徳言は苦々しい声で彼女に答えた。
「もう隋軍は」
「はい。それでは」
「この都を去ろう」
 そして妻に対してこう告げた。
「都を。今からな」
「わかりました。ですが」
「ですが。何だ?」
「この有様です」
 楽昌は今にも崩れ落ちてしまいそうな顔で夫に対して告げてきた。
「何かあって離れ離れになってしまえば。その時は」
「そうだったな。そうなってしまえば」
「はい。今生の別れになるかも知れません」
 彼女が恐れているのはそのことだった。徐徳言もそれを聞いてはたとそのことに気付いたのだった。

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