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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第21話 初陣 その1
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「士官学校首席卒業者なら、つまらない爺の戯れ言などをいちいち人事に告げ口してせこい功績稼ぎするとは思えないからだよ……というより、君自身あまりリンチ准将を快く思っていないように見えたからかな」
「そのつもりは全くありませんが?」
「……慎重というのは悪くない。特に口は災いの元だ。私も気をつけるとしよう」

 そう応えると、エジリ大佐は沈黙の徒になってしまった。俺も閉じた貝を開こうとは思わなかった。無理矢理こじ開けて、こちらが余計なことを喋っても仕方ない。口は災いの元と当のエジリ大佐も言っている。

 それから四時間、エジリ大佐が指揮官代理の間、艦隊は一度ならず人工物反応を確認したものの、スパルタニアンから送られた映像を見るに一〇〇年以上昔に航行中の艦艇から放擲された廃棄物であるので、リンチを起こすことはなかった。念のためエジリ大佐に艦隊を一時停止させ、詳細な検索に取りかかるよう俺は進言したが、大佐は首を振ってパッシブセンサーによる捜索だけで終わらせた。

 いずれにしても大目的である根拠地には当然何らかの防御装置が働いていることだろう。エル・ファシルのようにその思考を逆手にとってレーダー透過装置を切っている場合も考えられるが、根拠地は動くことが出来ない。そしてそういう基地のたぐいは根本的に金属の固まりである。磁気センサーやアクティブレーダー、重力変動探査装置なども利用できる。なにしろ小惑星帯と艦隊の距離は、エル・ファシルの脱出時における帝国軍哨戒艇と脱出隊の距離に比べはるかに近距離なのだ。

 結果として星区侵入してから三六時間後。俺達はついに小惑星帯に巨大な重力変動点を確認した。そこには複数の艦艇と思われるエネルギー反応も確認できた。リンチは既に起床し、艦橋に入っている。

「……この星区において鉱石掘削活動などの民間商業活動の申請はない。そうだな? ボロディン中尉」
「はい」
「軍部で極秘工作活動を行っているという話もない。あるとしたら作戦申請時に確認できる。そうだな?」
「はい」
「では簡単な引き算だ。艦隊全艦、攻撃準備。目標、海賊基地」
「艦隊全艦、攻撃準備。目標、海賊基地」
 俺の復唱をオペレーターがさらに復唱する。その声は三六時間前とは比べものにならないくらい緊張しているのは、艦橋最上部の俺からもよく分かった。俺とエジリ大佐、それにオブラック中佐とカーチェント中佐の視線がリンチに集中する。リンチの喉を唾が落ちていくのが、一番側にいる俺にはよく分かる。

「攻撃を開始せよ(プレイボール)!!」
 自らの弱さを隠そうとする陽気で皮肉っぽい声とともに、リンチの右腕は振り下ろされた。



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