第21話 初陣 その1
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いたに違いない(リストラされていなければ)。もちろん大佐といえば、中小企業の社長並みの権限と部下がいる。首席参謀の彼には部下は従卒だけだが、前世の俺よりは社会的な地位は上になるか。しかし、今の彼は上官にあまり協力的でない部下の一人だ。
「……私の顔に、何かついているかね?」
俺の視線に気がついたのか、エジリ大佐は首だけ俺のほうを向けて問うてくる。まさか懐かしい顔ですので、とは言えないので、爆弾を込めて別の話題を振ってみる。
「失礼ですがエジリ大佐は、こういう作戦はお嫌いですか?」
俺の問いに、エジリ大佐は勢いよく振り向き、ぎょっとした視線で俺を見つめる。これほど失礼な質問に、叱責ではなく驚愕で応える処を見るに、彼の士気が低いのは間違いない。一瞬の沈黙の後、俺から視線を再びメインパネルに移してから、大佐は応えた。
「……なるほど。私は君の目には『やる気のない首席参謀』に見えるのかね?」
「エジリ大佐とこういう話をするのは初めてですので……知人に全くやる気のなさそうな立ち振る舞いをしつつも結果を残す者がおりますから、大佐もそう言う『スタイル』なのかと」
「いや、私は君の言うとおり、見た目通りのやる気のない首席参謀だ」
それを馬鹿正直に言ってどうするよ、と俺は心底呆れたがエジリ大佐の声は随分と悟りきった感じであるので、あえてそこに踏み込もうとはしなかった。俺が黙っていると、大佐はゆっくりと言葉を続けていく。
「私も君くらいの年だったか。専科学校を卒業して三年かな。下士官昇進試験を受けて兵曹長になった。その時は未来に対し夢も希望も溢れていた。今のリンチ准将のように、ただがむしゃらに突き進んでいた。二四歳で幹部候補生養成所に入り、翌年少尉任官した。砲術長や船務長、駆逐艦の艦長と順調に昇進していったが、専科学校出身者の限界に当ってね……」
それはつまり幾ら功績を挙げても、士官学校卒業者を優先する人事システム。幕僚経験のない者には将官への道は『事実上』閉ざされている。アレクサンデル=ビュコックやライオネル=モートン、ラルフ=カールセンのような例外は知られていても、あくまでも例外だからこそ、その名が際だつ。おそらく俺がこの間までお世話になった査閲部長のクレブス中将もそうだろうが、あの人はデスクワーク側の人間だ。
「なんとか五〇歳で大佐までは昇進できた。士官学校の下位卒業生とほぼ同じだ。だがそれは武勲を挙げたから、ではなく軍内派閥で上手く立ち回ったからに過ぎない。ある人からそう教わってから、私はもう自分の職責を全うすることだけを考えるようになったよ。リンチ准将には悪いが、あと二年の任期を平穏無事に過ごしたい。それだけだ」
「……人事考査にはとても聞かせられないお話だと思いますが、何故そんなことを小官に話してくれるのですか?」
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