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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第20話 胃痛
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。俺の艦隊だ。装備も練度も海賊共とは格が違うし、なにより海賊には俺に匹敵する指揮官はいない」
「それはそうですが、数は力です。このままではケリム星域外縁部の治安悪化が先か、第七一警備艦隊の過労死が先か、となってしまいます」
「この程度の作戦任務で過労死するような奴らなど、どうせものの役には立たない。貴官の前任者もそうだったが、数日徹夜したぐらいで、音を上げるような奴は大抵口先だけだ。それより中尉、D星区の海賊出没統計資料は出来たか?」
 リンチの退庁後、睡眠時間を削って作成した資料を俺が差し出すと、片手でページをめくりながら、再びあのチョコレートを口に放り込み、バリボリと音を立てて噛み砕く。殆ど呼んでいるのかと思うような速読でリンチが資料を読み終えると満足そうに頷いた。

「やはり貴官は頼りになる。参謀を持つなら貴官のように努力を惜しまない人材が相応しい」
「エジリ大佐は、実績も経験も充分おありの方ですが……」
「エジリは頭が固い上に、自分の仕事を型にはめている。だから星域全体の視野というものがない。俺の艦隊における仕事はそつなくこなすから飼っているだけで、時期が来れば中央から誰か連れてくるつもりさ」
「……オブラック中佐とカーチェント中佐は?」
「後方参謀は艦隊の燃料と武器の補充に支障がなければいい。情報参謀はとりあえず統計処理が出来ればそれで充分だし、貴官もいるから業務に支障はない。あいつ等は士官学校の頃一緒だったからな。それなりにこちらも力量を心得て仕事している。もっとも俺の仕事を手伝える成績じゃなかったが」

 俺の出した資料を基に、第七一警備艦隊を近々出動させるということになり、俺は珍しくリンチから定時での退社が許された。それをありがたく俺は受けると、リンチの言葉を胸くそ悪く思いながら、三日ぶりに帰る宿舎への途中にあるPXに寄っていつものように胃薬を買う。
「坊や、幾ら薬効成分が弱いといっても、こういう薬を常用するのは良くないよ」
 年季の入った、薬剤師の資格を持つPXの販売員のおばちゃん……マルセル上等兵軍属が、いつものように胃薬を袋に入れながら言った。
「リンチ准将のところで鍛えられているんだろうけど、あの人は自分にも容赦ないけど、部下にも容赦ないからねぇ……奥さんも娘さんもいるというのに、ろくに家へ帰らないから」
「はぁ……」
「今は良いけど、いつか大きな失敗するんじゃないかって、あたしゃ心配でねぇ……優秀なひとだから余計心配なんだよ」
 この人のいいおばちゃんに、エル・ファシルの悲劇を予測できるとは思えないが、リンチにそう予感させるものがあるのも確かだ。
「准将閣下はマルセルさんの目から見ても優秀な方ですか? その、副官としてこういう質問をするのは大変恥ずかしいのですが」
「そりゃあ、そうだよ。准将が来
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