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ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫
≪アインクラッド篇≫
プロローグ リセットの享受
プロローグ 郷愁の日々 その参
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もしれない、と思うとぞっとする話だ。

 群衆がわぁわぁと喚きながらもしばらくすると、茅場晶彦は金属質な声で言葉を発した。

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』

 続く言葉は予想できた。先程出した推測は絶対と言っていいほどに自信がある。この男なら、茅場晶彦ならする、という確信がある。

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終目標だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 やっぱり、と思った。何故か俺はその言葉を聞いて安心した。両足が≪架空≫の石畳をしっかりと踏みしめているのを実感した。

『・・・・・・以上で≪ソードアート・オンライン≫正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る』

 茅場晶彦の言葉が名残惜しそうに響き渡り、そして消えた。

 真紅の巨大なローブ姿が音も無く上昇し、フードの先端から空を埋めるシステムメッセージに溶け込むように同化していく。
 肩が、胸が、そして両手と足が血の色の水面に沈み、最後にひとつだけ波紋が広がった。直後、天空一面を彩る赤い紋様もまた、唐突に消失した。

 チュートリアルが終了し、ゲームは通常通りに作動する。ただひとつの変更点を含まなければ。

 そして――やっとルールを認識したのか、一万人のプレイヤー達は、然るべき反応を見せた。

「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ! 出せ! ここから出せよ!」
「嫌ああ! 帰して! 帰してよおおお!」

 悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。そして咆哮。

 俺のはそのどれもせずに、ただただ現在の状況を確認していた。

 俺は――俺は何をすればいい?

 当然、≪この世界≫の攻略だ。

 茅場晶彦は本気だ。この計画は長年の彼の夢だったんだろう。そう思わせるだけの語りだった。茅場晶彦は恐らく自分の考えられる手段すべてで、外部からの救出手段を絶たせているはずだ。
 あいつは間違いなく大天才の部類だ。茅場晶彦には科学分野の研究が十年進んだといっても過言ではない実績がある。
 警察がどれだけ本気を出したって、このナーヴギアの構造を、製作者たる茅場晶彦以上に理解することは不可能だろう。もし仮に、ハッキングを試みようたって、一体何処に一万人の命を背負えるクラッカーが居るのだろうか?
 そんな奴いないだろうし、いたとしても被害者家族や世間がそれを許さないだろう。

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