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ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫
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のは既に俺もウィンドウを開き、アイテムストレージの中を確認し終えたあとだった。

 そこにあった見慣れないアイテムは――――≪手鏡≫。

 俺はとくに深く考えずにその名前をタップし、浮き上がった小ウィンドウからオブジェクト化のボタンを選択。たちまち、きらきらという効果音とともに、小さな四角い鏡が出現した。

 手に取り、鏡や裏側などを調べても、とくに現実にあるような普通の鏡と変わりない。鏡の中に写る俺は、お世辞にもイケメンとはいえない痩せた顔で目がぐりぐりの裏切りそうな盗賊顔だ。十二時間かけてつくった、現時点で俺の最高傑作ともいえる素晴らしいクオリティのアバターだけだった。

 ふと、≪見納め≫という言葉が脳裏に浮かんだ。その言葉はすぐに脳裏から消え失せたが、次の瞬間にはまた浮上してくることになる。

 突然、周囲のプレイヤー達のアバターが白い光に包まれた。と思ったら、すぐに俺も同じ光に飲み込まれ、視界を白一色に奪われた。
 ほんの二、三秒で光は消え、元の風景が現れ…………違う、変わっている。

 俺の視界が先程より広がっていた。しかし物と物との距離感は変わってはいない。それは俺の身長が相対的に上昇したことを意味する。
 つまり、周囲の人間の背が縮んだのだ。と俺は推理した。俺は嫌な予感とともに、反射的に手鏡の中を覗き込んだ。

 其処には、俺が苦心しながらも楽しみながら造った、作製時間十二時間の大作、愛してやまない愛しの盗賊顔、ではなく。

 さっきまでと同じ焦げ茶の髪。髪の色に似合わい大人しく保守的な顔。下が細いやや楕円形に属するこの顔の輪郭の持ち主は――。
 茶髪を除けば、俺の現実の顔……いつもどことなく不機嫌そうだ、とクラスメイト達には大変不評な高校二年生の顔だった。
世 間ではクールなキャラクターとして通っていたのに、今では茶髪と髪型のせいでなんだかストリートフッションの大学生みたいになっている。
 しかしそんなことよりも俺を衝撃させることは別にあった。

「うっわぁ……俺の十二時間……」

 どちらかといえば、現実の顔にさせられた衝撃よりも、最高傑作を消去された衝撃のほうがずっと大きかった。
 衝撃のあまり手から手鏡がゆっくり滑り落ち、ささやかな破砕音とともに飛び散り、跡形も無く消えていった。

 ナーヴギアでいつの間に俺の顔を調べたのかは疑問が残るが、この際そのことは些細なことだった。
 周囲を確認した俺がなによりも戦慄したことは、今まで眼前に居た才色兼備そうな美男子や美女が、まるでコスプレ会場のコスプレイヤーに早代わりしていたこと。
 そして先程まで目の保養と成っていた女子達の大半が女装男となり、男女比が逆転していたことだった。
 俺もキャラメイク次第ではこの哀れな集団に属していたか
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