暁 〜小説投稿サイト〜
空も飛べるはず
第一章

[2]次話

第一章

                   空も飛べるはず
 あの時の僕は荒れていた。
 目的もなくてただ生きているだけだった。
 ヤクザ者の様に生きていて。悪いこともしてきた。
 その時も。ナイフを持ってうろうろしていた。そこでだった。
 僕は君と会った。君と偶然出会えた。ぶつかってしまった。
「おい、気をつけろよ」
 こう言おうとした。しかしその時だった。
 君はその僕にだ。こう言ってくれた。
「御免なさい」
 たった一言。先に謝ってきた。
 そしてそのうえで。僕に頭を下げてきた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
 僕はその言葉に。戸惑いながら答えた。
「大丈夫だけれどな」
「そう、それならいいですけれど」
 普段ならここから脅してカツアゲでもしていた。けれどできなかった。
 その僕にだ。君はこうも言ってくれた。
「それじゃあですね」
「それじゃあ?」
「御怪我とかないですよね」
 僕のことを気遣ってくれて。尋ねてきた。
「本当に。大丈夫ですよね」
「こんなので怪我する筈ないだろ」
 僕は戸惑いながらまた言った。
「そんなのな」
「ないですか」
「ないさ。安心しろよ」
 言っているうちにだ。僕もわかった。
 顔が微笑んできていた。そのことがわかった。それでだった。
 笑顔でだ。また君に言ってしまった。
「何もないから」
「わかりました」
「じゃあな」
 こう告げて背を向けた。それで終わりだった。その筈だった。
 けれど。その次の日、そう次の日だった。
 喫茶店に入った僕の前にだ。君がいてくれた。
 注文をしようとしたら君が来てくれて。笑顔で僕に言ってくれた。
「何にされますか?」
「えっ、確か君は」
「はい、昨日御会いしましたね」
「うん、そうだったね」
 僕は戸惑いながら君の笑顔に応えた。
「あの時の」
「まさかここで御会いするなんて」
「思わなかったよ」
「そうですね。本当に」
 僕に言ってくれた。ウェイトレスの姿で。
 その姿があんまり奇麗で。僕は見惚れて。それで戸惑って。
 そうした中で。君に。少しずつ言ったのを覚えている。
「このお店って何が美味しいのかな」
「そうですね。紅茶ですね」
「そうなんだ」
 実は僕はコーヒーの方が好きだった。そっちの方が格好いいと思って。
 それでだった。いつも飲んでいた。けれど。

[2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ