大剣持ちし片腕が二人
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の一時
振り合う二つの大剣が描く軌道は真逆
……兵士の誰もが、胸の奥まで響く振動を感じた。
ありとあらゆる声が戦場から消えた。剣戟も降りしきる矢も無視させてしまうほど、意識の全てをその一合が持って行った。
次いで、情けない悲鳴が上がる。春蘭が駆け抜けた先、袁紹軍の兵士達からは……紅の華が咲き誇った。仕事はまだ終わっていない、と春蘭は振り返りもせずに戦場を自在に駆けていた。
その後ろで、地に何かが落ちた。
重量のあるソレは宙を舞い、場所を選ばず血と臓物が散らばる大地に落ちた。
「あー……くっそー。こんな初めっから終わりにしちゃ、ダメだけどっ!」
ビリビリと痺れる掌を片手だけ振り、春蘭の駆け抜けた後で漸く動き出した後続の兵隊に、中ほどで叩き折られてしまっている大剣を思いっ切り投げつけた。
武器を折られては戦えない。武人が武器を折られては、それ即ち敗北を意味する。
袁紹軍の兵には、じわじわと恐怖が押し寄せる。
たった一合で決まってしまった優劣。自分達の将と相手の将の力量差を把握すれば、弱きに心が馳せて行くのだ。
しかし……
――愛用の武器がやられた。でも、それがどうした。
満面の笑みで、打ち震える猪々子が居た。心に湧き立つ悔しさはある。しかし今は、それを抑え付けなければならない時であった。
振り返れば、自分の部下達が春蘭に向かい行く。前を向けば、夏候惇隊にも向かって行く。わらわら、わらわらと、文醜隊の最精鋭が群れて行く。彼らの表情は楽しげであった。
一人の部下が駆けて来た。渡されるのは予備の大剣。戦おうぜと誘っているような、否、戦うんですよねと問いかけているような、そんな笑みを浮かべていた。
武人としての戦いは……もはや勝敗が決した。しかし戦人としての戦いは、部隊は、軍は……負けてなどいないのだ。
「あんたは強いよ、夏候惇。でもさ……」
同じような笑みを浮かべた猪々子は春蘭には“向かわない”。部下が向かった事さえ確認出来れば、後は彼らに任せるのみだった。
彼女が向かう先は……たった一つ。
「バカさなら、あたいの方が上なんだぜ、きっと!」
剣で新たに指し示すのは敵歩兵部隊。ペパーミントグリーンの彼女が寄せてくる、その部隊。
付き従うのは、春蘭を抑えに向かった兵達以外の文醜隊。
「さあ行くぜお前ら! 次はあの歩兵部隊だ! 夏候惇隊をぶっ倒してから貫いてやろうぜ!」
言ってすぐに先頭を駆ける彼女に、やはり我らの将は最高だ、と内心で零しながら続く兵隊たちには、バカしかいなかった。
敗北の意味を間違えない部隊が、この時の袁紹軍を突き動かし、行動によって纏め上げていた。
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