大剣持ちし片腕が二人
[9/15]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
変わりはないがな!」
黒麒麟が敵であろうと、自分のする事は変わらないと言わんばかり。本調子の、最精鋭の徐晃隊であったとしても、勝つのは自分だと春蘭は自負していた。
言いながらチラと後方を見やり、流琉がまだ来ない事を確認した。
こちらの被害はそれほど出ていない。袁紹軍は自分の兵にすら矢を射掛けると雛里から聞いていたが、今回はなされていない。かといって、臆病に戦々恐々としながら戦うなど、春蘭には出来ないしするはずも無い。
血に濡れた大剣を一振り。隻眼には轟々と燃える闘志。歓喜から吊り上る口元は、自分が戦うに値する敵への称賛を込めて。
ふと、思い出したモノがあった。
自分が渡した銀の笛。大切な宝物だと握りしめた少女は……泣いていた。
悲哀湧き、苛立つ、心の芯その奥まで。代わりに、というのは愚かしい考えだ。
――しかし一太刀、せめて一太刀だけは……華琳様の為だけでなく、お前とあの子の為にも振るってやろう。
兵列が割れる。乱雑に立ち並んでいた歩兵弓兵の類が焦りと歓喜を沸かせて散り散りになっていく。
一直線に、真正面から、敵は突進してきていた。
「へへっ、おっそいからあたいが来てやった! 片腕同士、仲良くシようぜっ!」
左に春蘭の部隊が多く寄った。辺りを警戒する視線は鋭く、威圧を放つ空気は尋常では無い殺気を纏っていた。
彼女の部隊には、洛陽での一騎打ちが穢された事は一生の不覚。春蘭が隻眼になってしまったのは、彼らの失態であったと心を戒めている。もはや二度と繰り返すまい、と心に火が燃える。
信頼から、春蘭は彼らに何も言わない。言わずとも、彼らが自分にとっての最善な行動をとるのだと“知っている”。
故に、不敵な笑みで大剣を構え、馬を走らせる彼女は……目の前の敵の事だけを考えればいい。
「生憎、お前と遊んでやる時間は少ない。
ただなぁ……雛里が泣いていたから……あのバカの代わりに想いを乗せておこうと思う」
猪々子の馬が駆けて来る。春蘭は両手に大剣の柄を持ち、腰元右斜めに構えて速度を上げた。
奇しくも大剣同士。純粋な膂力を以って、彼女達は敵を叩き斬る事に長けている。バカだバカだと罵られる事の多い二人は、似ているのかもしれない。
目を一層に開いて、大きく息を吸ったのはどちらもであった。互いに、一合に全力を乗せると決めたのだ。
肩に大剣を担いだ状態の猪々子も、向かい行く春蘭も、来る衝撃に備えて太腿にはさらに力を込めた。
顔に浮かんだ笑みは、両者共が不敵。狙いは、互いに理解していた。
殺気が無い。けれども、そんなモノは無くとも人を殺せる。
あるのは、自信と高揚と別々の想い。技は無く、ただの純粋な力比べ。自分が上か、相手が上か。
馬が交差するその一瞬、そ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ