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乱世の確率事象改変
大剣持ちし片腕が二人
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か月は彼らにとって地獄だったと言える。それを生き残ったという自信と、恐怖が刷り込まれる程に異質な死地の経験を得て、そして曲がる事のない彼女が居るから……自分達をナニカに変えていた。

 やはり我らの将は最高だ……大剣を敵に向けて突きつける彼女の背を見れば、兵達の皆は歓喜に打ち震える。

 殺し合いを楽しむのは人として間違っている。そんな“下らない事”は頭の外に追い出していた。今の今だけは。この戦場という狂気溢れるこの場所でだけは。
 命の駆け引きが楽しいか、それとも敵を屠るのが楽しいか……断じて否。
 彼らは自分達の力を十全に出せる事が楽しくて仕方ない。殺しという敵に与えた結果に意味は無く、自分が全力を出し切れるかどうかが最重要となる。
 だから彼らは彼女と同じく、今この時だけは“武人”であった。

「後ろの細かい動きは郭図に任せとけ! 騎馬隊なんか幽州で腐る程戦ってきた! あいつらと真正面から戦えんのはあたい達で決まりだろ! 奴等が来る、あたい達が行く、ぶつかる、そんでもって倒すっ! 行くぜ……あたいに続けぇっ!」

 雑多な歩兵の群れ、隅々にまで騎馬の突撃を知らせるには声では些か心元無い。銅鑼は他の命令に使っている。もっと効果のある道具を袁紹軍は持っていた。
 黒に塗られた金属製のソレを、猪々子は大きく肺一杯に空気を吸ってから口に咥えた。
 高い音が上がった。大切な、大切な音が。“彼”の知らない所で、“彼女”の知らない所で……黒の嘶く声が戦場に響いた。


 袁紹軍の中央は乱れていた。
 居並ぶ歩兵を蹂躙すれば、練度の低さから、その区画だけでも雑多に混ぜ込まれた乱戦になるは必定。
 敵は大軍。孤立無援の部隊となってはならない。それを良く知る春蘭は後背に流琉達が到着する時間を知っていた。親衛隊が後ろに居る、という戦場は春蘭にとって当たり前。ましてや、流琉と共に並んでいる部隊は自分の副隊長が率いる純粋歩兵。それが合わせられぬはずがない。
 そんな中で、耳に届いた笛の音に春蘭の黒髪が揺れる。猪々子が自分の居場所を示す声は届いていた。任された仕事はまだ先だからと気にせず戦っていたが、さすがにその音を聞き逃すわけにはいかなかった。

「貴様らがあのバカの嘶きを使いこなせるか、使いこなせないか……私は知ってるぞ」

――華琳様の親衛隊でさえ、まだ完璧には使いこなせていないのだから。

 複雑な命令は指揮系統を鈍らせる。元々単純な命令伝達の為に作られた笛である。多種多様な扱い方を部隊に教え込むには時間が掛かり過ぎる。
 積み上げられた練度に信頼と絆があってこその黒麒麟の嘶きであるのだ。

「お前達は徐晃隊のようには戦えない。面倒くさい小隊指揮の連携制圧は出来ない。
 くくっ、まあどちらにしろ、私がぶち破ることに
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