大剣持ちし片腕が二人
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われるだけで、自分がするべき事を示してくれれば、明は何も迷う事は無い。
「……うん」
されども、口から出た返事の声は短く、いつもの笑みも浮かべられず、簡素であった。
するりと首に手が回された。自然な動作で腰を僅かに落とした明の耳元に寄せられるは桜色の唇と、甘い吐息。
「大丈夫、大丈夫。大切なモノには優劣が付く。それを付けられない人間は、本当に大切なモノを見つけられていないだけの可哀相な人。其処には純粋で狂おしい想いが無い。自分を捨てていい程に他者を心の底から想った事が無い、想う事が出来ない、私達や秋兄みたいになれない、そんな人達。
私はお母さんが一番、あなたが二番。麗羽と秋兄と桂花が三番くらい。あなたは私が一番で、これから繋がるモノを次席に振り分けていく。ただそれだけ。だから、大丈夫」
紡がれていく言葉。凍らせた心に穿ち入れられるは、明にとって安息と温もりを齎す理論。自分にとって大事なモノだけを守る彼女達が組み上げてきた歪んだ理論。
夕だけが一番であれば、何も問題は無いのだと。その優先順位が変わる事は絶対に無いのだからと。
――移ろう心はあるけど、変わらない心もまたある。私達は変わらない。優先順位は、変わらない。誰かを選べない愚かしい人間にだけは……絶対にならない。
心の内で唱えながら、自身の想いを再確認していく夕。顔を少し離して、濁り切った金色の瞳と視線を結ぶ。
「ありがと。もう……問題ないよ、夕」
薄く浮かべた笑みに、小さく出された舌の色はただ赤く。空腹を埋めるかのように口づけを一つ落とされた。
切り取られた時間には波の音が響く。心を洗い流すかのようにも、心を乱すかのようにも聞こえるそれにも、明の心は揺らがない。
離れて見つめると黒瞳は優しく輝いていた。
「文醜は死なせないよ? 郭図もどうすればいいか分かってるはず。兵士にたくさん死んで貰うだけ。この戦の第一段階はまた敗北から始める。それを知ってていいのは、私と明と郭図の三人でいいの」
キョトン、と目を丸くした明はまた口を引き裂いた。袁の王佐の思惑を漸く理解して。
「あー、なるほどね」
僅かに湧いた安堵に苛立ちが生まれる。しかしその程度の揺らぎは、もはや抑え込める。
確認するように瞼を閉じた。目の前の温もりを失わせない為ならなんだって捧げよう。
――あたしは夕の言った通りにすればいい。この戦さえ終わればきっと、全てが上手く行くんだから。
「了解だよ、あたしのお姫様♪」
ぎゅうと一度だけ抱きしめて、ペロリと舌を出して笑った。
目の前の小さな少女を信じる事こそが明にとっての光であった。
二人で軍議場に向かう為に並んで歩き出して幾分、夕は空を見上げた。蒼い蒼い空が広がってい
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