大剣持ちし片腕が二人
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豊の奴が延津を壊滅させてりゃあいいが……まあ、こっちの将の数を見ても不可能か。それにしても……」
地図を広げて淡々と繋ぐ。
「神速……が、厄介だな。全く」
途中、山間に置かれた一つの駒を憎らしげに見下ろした。
「曹操軍の軍師連中は敢えて短期戦略を取らねぇってこった。今回の“威力偵察”でそれが確認出来ただけでも大きい。文醜よぉ、お前が生き残れたのはそんなとこだ。田豊と立てた予測の通りにな」
「……あー、もうちっと分かり易く言えよ。ってか説明が足りねぇ」
目をぱちくりさせて首を捻る猪々子。
舌打ちをついた郭図は呆れたように盛大なため息を零した。
「これだから脳筋は……」
「おいてめっ! あたいだってイロイロ考えてんだぞ!?」
「はいはい。お前が考えてるのは桃色な妄想かバクチのあれこれだろうが」
「だ、ダメ人間みたいに言うな!」
「うっせぇ、説明しても理解出来ねぇだろ? お情けを掛けられて生き残れましたー、それだけ理解しとけ」
ぐ……と言葉に詰まる。
一騎打ちの一合……あれは問題ない。力量差から負けたが、死ななかったのは個人の力が生きるに足り得ていたという事なのだから。
彼女は武器を失ってから、武器をもう一度掲げたにも関わらず、春蘭は気を向けようとしなかった。それも……問題ない。互いに武人から戦人に変わったというだけであるが故に。
一番の問題は一つ。
無理矢理突出した一つの部隊その中、袁紹軍の二枚看板と謳われる文醜を……曹操軍の屈強な兵士達が包囲もせず決死にもならずに流していたという事だ。極上の手柄が目の前にあるにも関わらず、兵達にさえ取るに足らない存在だと扱われた。
腹立たしいか、と問われれば悔しさが大きい。
確かに戦うのはいつも通りに楽しかったが、それを知ってしまえば高揚していた気分も霧散してしまった。
生き残った、と宣言したはいいが、決死突撃の地獄を抜けたあの時のような達成感は皆無だった。
自軍の兵達の指標になる為に、奮い立たせる為に見せた姿……それがあの宣言。武器が折れても決して折れない心を示し、敵に無茶苦茶な突撃をしても生きて帰れば、兵は気を引き締める。自分達も覚悟を決めなければならないのだ、と。
しかし曹操軍の士気には大して影響を与えられていない、張子の虎扱いだと気付いた。
「曹操軍は普通の戦をしてねぇ。俺達と同じく、な。だからお前らには分かんねぇだろうよ」
慰めにも聞こえる言い方をした郭図は、苦々しげに口を歪めていた。
猪々子は呆気にとられるも、べーっと舌を出してから天幕を後にした。
一人残った郭図は舌打ちを一つ。
「お前らみたいな駒には分かるわけねぇわな……この戦は将棋と同じなんだから」
冷たい声は誰に零すでもなく
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