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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第19話 器量
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てみると、司令官公室には三人の男が待っていた。一人は年配で、もう二人はリンチと同い年位だろうか。大佐と中佐が二人。

「紹介しよう。首席参謀のエジリ大佐に後方参謀のオブラック中佐、それに情報参謀にカーチェント中佐だ」
 すっかり髭を剃ったリンチは、その容姿だけでも『少壮気鋭』と主張している。それに引き替え、紹介された三人からは一見しただけでも全く覇気というものが感じられない。

 首席参謀のエジリ大佐は五〇代後半。もうこの年齢での将官昇進は無理だろう、という言葉が服を着て歩いているような男だ。士官学校卒業ではなく専科学校卒業ということだから、若い頃は有能だったに違いない。だが白髪交じりで頬が薄い今の彼にはその面影すら残っていない。
 後方参謀のオブラック中佐と情報参謀のカーチェント中佐はリンチと同い年で、士官学校でも同期だったとか。オブラック中佐は茶色の、カーチェント中佐は鉄灰色の髪の持ち主で、いずれも中肉中背。それほど目立った容姿をしているわけでもないが、俺を見るオブラック中佐の黒い瞳は落ち着きがなく、カーチェント中佐はリンチと俺を比較するように視線を動かしている。

 これはマズイ。俺は本能的に思えた。

 司令官からしか覇気が感じられなく、主要な幹部にはそれが感じられない。司令官の同期という部下は明らかに挙動不審だ。一見しただけで他人を評価するのは愚かなことかもしれないが、幹部達は司令官のイエスマンとしか思えない。そうなると艦隊首脳部の実力は司令官の双肩のみにかかってしまう。とてつもなく優秀な司令官であっても、所詮は一個の人間に過ぎない。やれることには限界があるし、視野にも限界が出てくる。

ヤン=ウェンリーは指揮官としての資質と参謀の才能を兼備する希有な人間とムライは評していた。俺も心底そう思うし、とても敵わないと思うところだ。が、ムライがその後でユリアンに自白しているように、本来参謀を必要としないであろうヤンはムライを求め、ムライは上司から求められた意義を理解し、司令官にことさら常識論を諫言する役目をうけおったのだ。そしてヤンは一度としてそれを煩わしいとは思っていなかっただろう。

 金髪の孺子にも赤毛ののっぽがいた。麾下には覇気に富んだ(富みすぎた奴もいたが)若い指揮官がキラ星のごとく。政略的な分野ではドライアイスの剣とミネルバ嬢ちゃんがいた。シュトライトのように用兵分野ではないにしても諫言する男も控えている。少なくとも金髪の孺子には、若干容量が少ないにしろ諫言を受け入れるだけの器量があった。

 リンチがヤン=ウェンリーや金髪の孺子に勝る軍事指揮官かどうか。それは実際にその指揮ぶりを見てみなければ分からない。分からないが、双方の幕僚を見比べるだけで、その器量に対して猛烈に不安が募る。

自分自身でも突拍子
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