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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十三話 変わりゆく日々に
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るのだ。駄目な方に防諜室員としての経験が活きているのだ。
「給金の大半を注ぎ込んでいらっしゃるそうですか――主に戯作本に。専門書は兵部省や軍監本部の経費で落としていたとかいないとか」
 趣味が入っていようと確かにあの頃の豊久は帰ってきてからもそうした本を必死に読み込んでいた。
 何をしていたのかは柚木は全く知らないが、そうした知識が必要だったのだろうと推測してた。
「それは――あの人らしいですね。」
 茜もくすりと笑った。

「姉さまもなんだかんだで義兄さまのこと好きなのふぇ!?」

「――あまりそういうこと言うのは止めなさい」
 碧の頬をつねりながら茜は真顔で言った。
わりと良く見かける光景である、気分転換というだけあって二人ともあえてじゃれ合っているのだろう。
 柚木も先ほどまでの焦燥感はどこかに消えていた。
「せっかくいらっしゃったのでしたら、何冊かお持ちになりますか?」

「宜しいのですか?」
 ふぉふぇんなふぁい!ふぉふぇんなふぁい!と鳴いている小動物の頬をこねくりまわしながら素直に目を輝かせる茜を見て柚木も取り繕うまでもなく明るく笑みを浮かべた。

 ――類は友を呼ぶ、か。私も史学寮務めの父からあれこれと本読みの面白さを教えてもらったし、戯作本を何冊か借りたこともある。書痴は本を読むのと同程度に相手に自分の好きな本を読ませることに無上の喜びを得るものなのだ。
 だからこそ――柚木は主の意図を最も的確に読み取って言葉を紡いだのであった。
「えぇ、若様からも不在の時でも通してよいと申しておりました。御二人がお読みになるのでしたら若もお喜びになるでしょう、ぜひ手紙の種にして下さい」



同日 午前第十一刻 皇都 馬堂家上屋敷 応接室



「お二方とも、よくいらっしゃいました。
豊守はどうしても外せぬ公務がありましてな、申し訳ないが、午後になってから出先で落ち合うことになるだろう」
 馬堂家当主である馬堂豊長が歓迎の言葉を述べる。
「えぇ、この度は急な訪問をお許しいただき、大変ありがとうございます」

「うむ。芳峰殿も健勝そうでなによりだ」

「大殿様」
警護班長の山形がささやきかける。
「――うむ。あぁ。向こうの動向とほかに居ないかだけ確認しておけ」

「どうにも羽虫が五月蝿くてかなわんな。豊長殿には世話になる」
 伯爵が豊長に目礼する。

「それだけの話、と理解していますので。」
獲物に飛び掛かる寸前の剣牙虎の如き眼光を宿しながら微笑して豊長が応える。

「えぇ、豊守さんに口利きして頂きたい話がございまして。」
 雅永義兄様が口元を引き結び、云う。
 成程、父が目を掛けただけの御方だ。茜は淡々とそう分析した。
 僅かに体を強ばらせているが、古強者を相
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