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第一章
リトルマーメイド
海だ。彼は今そこにいた。
源口明信は今一人海にいた。地元なので毎日来ていた。
白い砂浜の向こうに青い海が何処までも広がっている。その海を見てだ。
そうしながら泳いでいた。初夏の海にはまだ誰もいない。
まだ海水浴客の姿はない。それで静かで奇麗な海を楽しんでいるのだ。
海の中に入りただひたすら泳ぐ。朝から夕方までだ。小学校は当然夏休みだ。彼の泳ぎを邪魔する者は誰もいない。筈だった。
しかしだった。ふと海の中から顔をあげた彼にだ。声をかける者がいた。
「ねえ」
「あれっ?」
「こっちよ」
女の子の声だった。小さな声だ。
「こっちこっち」
「こっちって」
「だからこっちよ」
声は後ろからだった。その後ろを振り向くとだ。
そこには女の子がいた。あどけない笑顔の女の子だ。髪はおかっぱにしていて目は黒めがちだ。白い歯を見せながらの笑顔だった。
「あれっ、どうしてここに」
「ここにいたら駄目なの?」
「人間ならいいよ」
こう返す明信だった。その日によく焼けた真っ黒な顔で言う。歯の白さと目の黒さはそれでもわかる。そのスポーツ刈りの頭もだ。
その顔でだ。女の子に対して言うのだった。
「河童とかじゃなかったらね」
「海に河童がいるの?」
「いるんじゃない?そりゃ」
こう女の子に返す彼だった。
「やっぱり」
「そうなのかしら」
「ひょっとしたらさ」
またいう彼だった。
「いるかもね」
「そうなの。じゃあ私は河童なのね」
「そうなの?まさか」
「だったらどうするの?」
女の子は笑顔で言ってくる。
「胡瓜でも食べさせてくれるのかな」
「うちコンビニだから」
「胡瓜はないの」
「あるけれどサラダだよ」
「あっ、私サラダ好きだから」
こう言ってきた女の子だった。
「よかったらね」
「うん、それじゃあね」
「それじゃあ今は」
女の子の方からの言葉だった。
「何をしてるの?」
「見ればわかるじゃない。泳いでたんだよ」
こう返す明信だった。
「ずっとね。この海でね」
「やっぱりね。そうなのね」
「君もだろ?それは」
「ええ、そうよ」
その通りだというのだ。これが女の子の返事だった。
「私もね。ずっと泳いでるのよ」
「一人だって思ってたのに」
明信は海から出しているその顔を傾げさせた。そのことに何処か残念なものを感じていたのだ。独占したものが奪われたような気持ちだった。
「違ったなんてね」
「まあそれはいいじゃない」
「いいのかな」
「気にしないの。それよりもね」
「うん、それよりも」
「泳いでるのは私も同じだから」
またこう言ってきたのであった。
「だか
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