オーバーロード編
第16話 一度は信じたから @
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のか?」
『兄弟だからね。――で、兄さん。アレ、どういうこと』
龍玄は、貴虎が一度も聞いたことがないほど冷たい声で、王妃にされた碧沙を見据えた。
答えたのは貴虎ではなかった。
「お前らの妹は、オーバーロードの王妃に取り憑かれたんだ」
草と土を踏みしだく音と、声。貴虎はそちらをふり返った。民族衣装姿のサガラが遺跡の中に入ってきたところだった。
「どうだい、王妃サマ。何百年ぶりかに自分の心臓を取り戻した気分は?」
「心臓?」
「知恵の実は時として“始まりの女”の体内に宿る。そして心臓に癒着する。つまり始まりの女が果実を渡す時、癒着が進み過ぎてると 宿主である女は心臓を失って死ぬってわけだ」
「そんな物を碧沙に埋め込んだのか!」
貴虎は龍玄と共にロシュオを睨みつけた。
「そういきり立つなよ、呉島兄弟。人類も含めて、これは何万、何億年とくり返された進化の過程なんだぜ」
「サガラ……お前、一体何者なんだ」
サガラが両腕を広げた。すると、サガラの姿が消え、蔓を巻きつけた蛇が浮かび上がった。
「“我ら”は永遠にはびこるもの。空を超えて茂るもの。旧き民に変革を促すものであり、あるいはただ単に“蛇”と呼ばれたこともある。お前たちがくれた呼び名で名乗るのもいいかもしれない。そうなると我が名は、ヘルヘイム――ということになるか」
「ヘルヘイムの……“森”の、意思? お前はこの“森”そのものなのか?」
信じられないが、ここでそんな騙りを働く理由がない。真実だと信じるしかなかった。
「呑み込みが早いな。その通りだ」
サガラが人の姿に戻った。
『ならそいつの心臓さえ取り出しゃあ、それで神の力が手に入るってわけじゃねえか!』
シグルドが喜々として、ソニックアローを王妃に向けた。
しかし、紅い光矢が放たれることはなかった。
ロシュオが掌をシグルドに向け、不可視の圧力を放ってシグルドを後ろの壁まで押しつけたからだ。
『ガハッ!』
「シドっ」
とっさに駆け寄ろうとした貴虎を、龍玄が押し留めた。
『だめだよ兄さん、巻き込まれる!』
「だがシドが…っ」
ロシュオはさらに圧力の向きを変え、シグルドが滑った跡が岩壁に残るほどの威力で、シグルドを遺跡の外へ飛ばした。
貴虎は体を引きずって追いかけた。
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