第二部 vs.にんげん!
第25話 あんさつのかげ!
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……。用事、何だった?」
「本来だったら私が直接お願いにあがるべきなのですが」と、前置きし、「ディアスさんは明日の退院を希望されてらっしゃいます。私はもう少し入院していてほしいのですが……。それで、明日の正午、ディアスさんを迎えに来ていただきたいのです」
自分が退院する際、シャルンとアーサーが迎えに来たことを思いだした。
「そんな事か。全然いいぜ?」
「それとあと、申し訳ございませんが、ディアスさんに冬物のお召し物を持ってきていただきたいのです」
「そうするよ」
ウェルドは教会を後にした。
宿舎は静まり返っていた。いよいよ総出でパスカ達を探しに行っているのかもしれない。今すぐにでも門が開いてもおかしくない。暗い宿舎で一人足音を立て、ディアスの部屋に入った。机にクムランから借りっぱなしの本が数冊積まれているほか殆ど物がない、生活感のない部屋だ。
ウェルドはディアスの手荷物を探し、ベッドの下にそれを見つけた。羊皮の荷袋には直射日光と砂埃から身を守るためのマントが仕舞いこまれていた。冬物の衣服として、これは心許ない。そもそも彼も多くの冒険者と同じく、生活物資は現地調達するつもりでいた事だろう。
そう思いながら荷袋に腕を突っこみ引っ掻き回していると、ちくりと指に痛みが走った。腕を抜く。中指の腹に、赤い血の珠が浮いている。
好奇心から、ウェルドは荷袋を空にした。
荷袋は二重底になっていた。長い針で外側の底が縫いとめられているからわかる。指を指したのはその針だった。
針を抜いた。
二重底には何か固い、細長い物が入っていた。それを掴んで引き出す。
真っ黒い短剣だった。
「いい得物持ってんじゃん」
窓の外の、灰色の雪明りにかざして鞘を外し、刀身を見たウェルドは凍りついた。
これほどおぞましい武器を見た事がなかった。
どのような鍛造技術で作られたものか、刀身は途中で捻じれ、しかも返しがついていた。これで体を刺されれば、急所を外しても確実に死ぬ。殺すという事への強烈な意志を感じさせる形状だ。
そしてその黒さ。
夜、月明かりも雪明りも吸いこんで暗闇を裂く刃。暗殺用のナイフ。
ウェルドは確信した。
ディアスは、誰かを殺す為にカルス・バスティードに来たのだと。
それでつながる。あいつが何をしにここに来たのか話さなかった理由。いつも暇そうにしていた事。それは、あいつが次の開門日にしか用がなかったからじゃないか。開門日にやって来て、適当に真面目にやっているふりをして、次の開門日にそっと人を殺して何食わぬ顔で出て行って。そうすれば、誰にも彼を追及などできない。
なあ、ディアス、そういう事なのか?
ウェルドは心の中で問う。
そういう事なら間違いだった。
世界中の人と引き換えに彼を助けたのは、どう
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