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【短編集】現実だってファンタジー
俺馴?その2ー2
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いればいつか自分に気持ちが傾くんじゃないかと期待するのは勝手だが、相手がその浅ましくも切実な願望に顔を顰めていては逆効果。空回る思いは行き先を失い、やがて落ちてしまうだろう。景品を取った後に失態に気付いた自分とて似たようなものかもしれないが、この男と同列はなんとなく嫌だ。

「……っと、そうだ」

折角余っているのだ。勢い余った気持ちは回収不能だが、クッションなら具体的な形が存在するから譲渡なりなんなりして次の行き場を見つけられるではないか。片方の袋から中身を掴み上げ、さっきはクッションに興味津々だったマイリに軽く投げる。慌てて投擲物を受け止めようと身を乗り出したマイリはバランスを崩してつんのめり気味になりながら、そのフカフカのクッションを見事手に収めた。

「わわっ……っと!って、これは……!?」
「やるよこのクッション。トドの方がいいんだろ?」

キャッチしたマイリは事態が把握できないかのように俺の顔とクッションとを交互に見やり、やがて自分がそれを貰ったのだと気付くとパァッと顔を輝かせる。
邪魔ならば欲しい奴に渡してしまえばいい。どうしてそんな簡単な事を思いつかなかったのだろう。それこそ、そこいらの子供にでも渡してしまえば解決だったのだ。いりこにクレーンゲームの優位性を示すには最低一個もあれば自慢するには十分な筈だ。マイリも得して俺も得するのだから一石二鳥ではないか。

「い、いいのか?サザメの取った物なのだろう?」
「いいんだよ、何となく取ったせいで持て余してたんだ。処理に協力しろよな」
「か、(かたじけな)い!ありがとう……やはりサザメはいい奴だ!」
「そんなに嬉しいものか、それ?」
「嬉しいに決まっておろう!貰えるだろうと思っていないからこそ余計に嬉しいのだ」
「……そういうものか?あいつもそうなんだろうか……」
「ふふふ……ふかふかだなぁ♪」

もうさざめの声も耳に届いていないのか、マイリの目線と興味はとっくにクッションの方に傾いている。トドクッションの感触を確かめるように頬を埋めながら喜ぶその姿はまるで子供のようで妙に微笑ましかった。このようなときに思うのだが、自分が素直ではない性質のせいか感情に素直な人間というのはなんとなく羨ましい。余計な事ばかり考えている自分が汚れている気がするからだ。
子供の頃はよかったな……などと思い出にふける。思えばあの頃は何もかも純粋だった気がする。
いりこはいなかったが。いりこは断じてその思い出の中にはいなかったが。

そういえば晴に出会った時には既に口が悪くなっていたな、と思って晴の方に目をやると、何故かこの世の全てに絶望したような虚脱の表情でこちらを指さしていた。いや、指しているのは俺が渡したクッションだろうか。それを見ながら戦慄く晴の姿は言うまでもなく挙動不
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