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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第16話 査閲と
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けの俊英だ。貴官もはやく出世して艦隊戦闘の場に出てくれば分かる。いや早く出てきてもらおう。実際の戦闘を見て、見聞を広げ、より建設的な意見を寄せてもらいたい。なにしろ中将に意見を言える少尉などそうそうおらんからな。中佐、少尉。ご苦労だった」
 それが面会終了の合図であることは疑いようもなかった。

「……申し訳ありませんでした」
 俺はアイアースの廊下を歩きながら、先を進むフィッシャー中佐に謝罪せざるを得なかった。この件で俺の上申を取り上げたフィッシャー中佐も、ロボスやグリーンヒルから睨まれることになる。フィッシャー中佐もグリーンヒルとさほど年齢は変わらないから、その差はほぼ絶望的になるだろう。下手をしたらアスターテまでに第四艦隊へ配属されることがないかもしれない。
「別段謝られるような話ではないよ少尉」
 立ち止まって振り向いたフィッシャー中佐の顔は、俺が考えていたよりもずっと陽気だった。
「あのロボス中将の苦虫を噛んだ顔を拝めたのだ。これはなかなかお目にかかれない光景だった」
「しかし」
「私も長い間艦隊勤務をこなしてきたが、こういうリスクを取ろうとは考えた事がなかった。安全運転というのかな。任務は果たすが、リスクを取って責任を負ってまで何かを得ようとはあまり考えたことはなかった」
 これが原因か、と俺はフィッシャー中佐の穏やかな笑顔を見て納得した。

 エドウィン=フィッシャーという艦隊戦闘において欠くべからざる才幹の持ち主が、初老になってようやく准将であったというのが疑問だったのだ。ヤンの右足と呼ばれた程の名人が、いくら戦闘指揮が『どうにか水準』とはいっても、もっと高い階級にいても良いはず。だが彼はその穏やかで真面目な性格が徒となったか、あるいは正直に臆病だったのか、不必要なリスクを負うことを躊躇していたのだろう。故に出世は遅く、ヤンという『有能な怠け者上司』に巡り会えたことでようやく大きく羽ばたいたのだ。

「査閲部にもそろそろ飽きてきたところだ。次の人事で私は何処に飛ばされるか分からないが……複数の艦艇を率いることになったら、貴官の『一点集中砲火』戦術を使わせてもらうよ。それで、相殺だ。いいね?」
「ですが……」
「貴官がこれから出世して、艦隊を率いてもらう時には幕僚の一人にしてもらえればもっと良いが……シトレ中将の言うとおり、貴官の性格ではなかなか出世できないかもしれないな」
 苦笑するフィッシャー中佐の顔を、俺はまともに見ることは出来なかった。

 俺はあまりにも恵まれている。父アントン、グレゴリー叔父、シトレのクソ親父にフィッシャー中佐。みな俺に対して愛情を持って接してくれる。それに応えるべき俺は迷惑をかけている。

 それが今の俺にはとても辛かった。



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