暁 〜小説投稿サイト〜
Meet again my…
アウトサイド ―ソアー
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

 それからも麻衣は何の追及もせず、くるくる表情を動かして働いた。

 起きた時に見つけた寝室に置いたダンボールの山を片付けよう、と麻衣に言われた時はどう切り返すべきか真剣に悩んだ。僕がこの部屋に戻る保証はどこにもないのに。

「こういうのは先延ばしにするとずーっと放りっぱなしになっちゃうんだからね。経験者は語るよ。それに帰って来た時、きちっとした部屋のほうが気持ちいいでしょ?」

 にっこり。その笑顔、やめてくれ。言い返す気力が根こそぎ削がれるんだよ。

 結局麻衣に根負けする形で、僕らは引越し荷物の片付けを始めた。
 これが案外、普段使わない神経を使わされた。麻衣に触られて困る物を選別するのは僕にしかできない。必然、僕の労働量は多い。
 ……疲労を許すのはトレーニングと決戦だけと決めていたのに。麻衣、人のささやかな宣誓、破った自覚あるか?

 ざっと荷物の片付けが終わっても、麻衣はまだ止まらなかった。布団を乾していいか尋ねてきた。いいと答えると麻衣は勇んで寝室に入っていき、かけ布団を持ってベランダに出た。本当によく働く。

 ハタキで布団を叩く麻衣の後ろ姿を何となしに見ていると、ポケットの中で携帯電話が振動した。麻衣に悟られないように、そっと部屋から出た。




「もしもし」
『こちらシャーロット・エージェンシー社長の……って名乗らなくても君は分かるか』
「そうですね」

 ここ数日、日高の拠点探しの件で世話になりっぱなしだった、調査会社の社長だ。

『電話で話すのは久しぶりだね。元気でやってたかい』
「おかげさまで。今のところ五体満足です」

 電話の向こうの微妙な沈黙。黙っていらえを待つ。

『――安部日高の本拠地を掴んだ』

 激しく心臓が跳ねた。
 ついに。ついに来た。あの女にかつての屈辱を叩き返せる日が。

『詳細はメールに送るよ』
「ありがとうございます」

 儀礼的な謝辞のあと、ふと、その人の名を呼んで。

「今日まで10年間、お世話になりました。あなたが情報集めを担当してくれたおかげで、心置きなく対策に打ち込めました」
『遺言みたいな言い方はよしてくれよ』

 遺言になると思いますよ。麻衣の予知夢によれば、どんな形であれ『僕』の死は避けられないみたいだから。
 そう考えると、他の人にも一報入れておくべきか。

『いつ決行するんだい?』
「場所が分かったんです。明日にでも向かいます。止めても聞きませんよ」
『止められるなら、君が仇討ちを決意したその時に止めてるよ。もっとも、君は全く聞く耳持たずだったけどね。あの人まで頑固に修業し直して備えてるくらいなんだから、君はもっと、この土壇場に降りるなんて無理だろう』
「よくお分かりで」

 電話
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ