アウトサイド ―ソアー
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の向こうが沈黙した。ここから見える東京の景色をぼんやりと眺めた。小春びよりの都市。はじまりもおわりも、ここ。
『……妻のことなんだけど』
意識を戻す。回想する。この人の奥さん――ああ、あの。大和撫子を体現した女性。
『妻が日高さんと友達だったことは知っているね』
「はい」
『彼女は迷ってる。日高さんに会いに行くべきか、静観すべきか』
「迷いがあるなら来させないでください。いくら日高がグリフィスの男児以外は殺さないと誓願を立てているにしても、リスクが高すぎます。望んで死地に飛び込む人間を止められはしませんが、死ぬと分かっていて見殺しにするわけにもいかない。その分だけ僕が敗北に近づくんです。足手まといは御免だ」
『歯に衣着せないところはお父さん譲りだね。声もそっくりだ。……彼と話してるようだよ』
だろうな。僕は父さん似だから。
「――一つお聞きしたいことがあります」
『何だい?』
「母は、どんな人でしたか」
電話口の向こうが水を打ったように静まり返った。
父の話題が出たんだ、次に母の話題になっても流れとしてはおかしくない。頭のいいこの人がその辺を読めずにいたなんて。本当に僕の両親は彼らの中で存在が大きいんだな。
『明るい人、だったよ。表情がよく変わってて、見てて飽きなかった。あと人懐こかかったね。まっすぐで元気なとこには、妻も若い頃ずいぶん救われてた。そうだな、きっと彼女は太陽みたいな存在だったんだ。みんな何だかんだで彼女が好きで、彼女が中心に回っていたんだろうね』
太陽。言い得て妙だ。なら彼女を中心に回ってたこの人や他の人たちは衛星か。
『だからこそ、目の前で彼女が殺された時は、僕も含めてみんなが呆然自失だった。いい大人が4人もいて、子供たちが後ろで見てたっていうのに動けなくて……思い返すたびに情けなくなる』
きっと電話の向こうで、この人はとても悲しそうに笑っているんだろう。
そう思って、どうしてか、昨日会った優子さんを思い出した。僕が一人で戦うと宣言して、哀しく笑ったあの人。
口が勝手に、動いた。
「明日、時間は10年前に戻ります。あの日の全てを取り戻して、正して来ます。だから」
待っていてください、とでも言う気か。帰れやしない僕が。死の未来が確定しているこの僕が。
『――ああ、安心した。それなら大丈夫だね』
信じさせてしまった。来るはずのない、僕が生きて帰る未来を。
『じゃあ、長話も何だから。健闘を祈るよ。妻と一緒に』
電話が切れる。どうしようもなくて、液晶画面のoffアイコンを押した。携帯電話を額に押しつける。
僕の中で、ゴメンナサイ、と意味のないオトが響いた気がした。
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