第十三章 聖国の世界扉
第五話 世界ガ悪魔ニ壊サレル前ニ
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士郎はテーブルの上で組んでいた手を解くと、顎に手を当てヴィットーリオに問う。
「何故、今なんだ?」
「―――今、とは?」
一瞬の間。返信の間としては、全く不自然ではない程度の僅かな問いかけに対する反応の隙間。だが、その一秒にも満たない間に見えた、微かな動揺を士郎は見逃さなかった。
「何故、今聖地を取り戻そうとする? “虚無”の力で聖地を取り戻すと言うが、別にそれに拘る理由はないはずだ。確かに“虚無”を利用すれば、短期間で“聖地”を取り戻せる可能性はある。だが、その分危険性も高い。下手をすれば、泥沼の戦争状態が数十、いや、数百年続く可能性がある。エルフは長命で力が強く賢い。それがどういう事か、少し考えれば誰にでも分かるはずだ」
静かに、しかし、強い言葉に圧せられたかのように、晩餐室の中が静まり返る。そんな中、最初に声を上げたのは、問いかけられたヴィットーリオではなく、
「―――確かに、そうですね」
アンリエッタだった。
士郎たちを出迎えてから不自然な様子を見せていたアンリエッタだが、今は落ち着いた様子で集まった視線に応えていた。
「何故かは分かりませんが、エルフは“聖地”に拘っています。“聖地”を奪われてからこの数千年、各国の王たちが“聖地”を取り戻そうと数え切れないほどの戦争、交渉をエルフに行いましたが、その全てをエルフは跳ね除けています。長命な彼らにとっても、数千年は長いはずです。なら、彼らにとって“聖地”が重要ではなければ、何かを見返りにし“聖地”を返していてもおかしくはありません。ですが、彼らは数千年も“聖地”を守り続けている。固執していると言ってもいい程に。それに何よりも、彼らは“聖地”を奪ったのです。そのことからも、エルフはかの地を重要視していることが伺えます。ならば、例え“虚無”の力を見せたとしても、素直に渡すとは考えられません。交渉が無理となれば、戦いになります。つまり“聖戦”―――殺し合いです」
淡々と、何の感情も込めず事実だけを述べるアンリエッタ。だが、最後の言葉だけは、冷たく酷薄な薄ら寒い冷気が帯びていた。
聴衆がびくりと身体を震わせる中、アンリエッタの淡々とした言葉は続いている。
「―――そうなれば終わりですね。最終的に“聖地”を取り戻したとしても、互いに多くの血が流れた後となるでしょうし。そこから生まれた憎しみや悲しみを糧とし、エルフは復讐を始めるでしょう。わたくしたちとは比べ物にならないほど―――長命で、力が強く、そして賢いエルフが」
アンリエッタの視線が士郎に向けられる。アンリエッタが何を求めているかを直ぐに察した士郎が口を開く。
「エルフとは一度戦ったことがある。ビダーシャルと名乗ったあのエルフがエルフの中でもどれほどのものなの
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